Echo, Back and Forth 2.Perception
足を速めるあゆみ。人々の間を縫って進むため、時折、靴がキュっと鳴った。
「あゆみ…ちょっと苦しい」
肩から提げたトートバッグの中のグレルが言った。
「ごめん。もうすぐだから我慢して」
あゆみには珍しく、グレルとエンエンの声に構わず速足で進む。
胸騒ぎがする。
夕べ、最終的な待ち合わせの場所と時間を連絡してきた みゆきが、「こないだ言ってた歌声って、ルルルとかラララって感じのやつ?」と言った。
「みゆきちゃんにも聞こえるの?」
《うん。あかねちゃんたちも聞こえるんだって。なんだろうね》
そして、今伝わって来る、お世辞にも愉快とは言えない、みゆきの思い。ついにあゆみは走り出した。
都会にしては高い木に囲まれた公園の一角、あゆみはそこに飛び込んだ。
「みゆきちゃん!」
「サニー! ピース!」
そこにいたのはみゆきではなくキュアハッピーだった。
そして、茶色い泥のようなものがうごめいている。
「マーチ! ビューティ!」
キュアハッピーの悲鳴。四人はその中に取り込まれてしまったのに違いない。
そして、赤い目の道化師がキュアハッピーを見下ろしている。
「グレル、エンエン、お願い!」
「よし来た!」
(フーちゃん、私に力を貸して)
三人が手をつなぐ。グレルの左手、エンエンの右手、そしてフーちゃんが姿を変えたエコーキュアデコルからにじみ出した光がトライアングルの中心で破裂した。
「思いよ届け、キュアエコー!」
あゆみの栗色のツインテールが淡いクリーム色に変わる。胸のエンブレムが輝き、キュアエコーが姿を現した。
「ハッピー!」
「エコー!」
キュアエコーとキュアハッピーは二人でその泥に手を伸ばしたが、あとわずかのところで泥は地面に吸い込まれるようにして消えてしまった。
「みんな…」
「エコー、危ない!」
キュアハッピーの声に体を翻す。ふたりがいた場所に火球が炸裂した。
「あれは、ジョーカー?」
「よくわからない。急に頭が痛くなって、気が付いたらあそこにいたの。
ジョーカーに似てるけど、なんか違う気もする」
キュハッピーとキュアエコーは、よくわからないそれを睨んだ。何でもいい。キュアサニーたちをさらったのだから、味方ではありえない。
〈ハッピー…エコーや!〉
「…。
サニー?」
〈みんな、キュア…コーが来…く…たで!
今、ハッ…ーと一緒…たいや〉
「サニー!」
「エコー、どうしたの?」
「キュアサニーの声が聞こえるんです」
ふたりは、ジョーカーらしきそれの攻撃をかわしながら叫んだ。
「サニー、今どこにいるんですか?」
〈であ…ば心強…で…ね〉
「ビューティ! 返事を」
〈…ッピー、…の泥には気…付けて!〉
〈ハッピ…の…が聞こえ…いよ〉
途切れ途切れだ。こちらの声もあちらの声も完全には届かないようだ。
「だけど、みんな無事なんだよね」
「はい」
「そうか。
エコーがいてくれてよかった」
「え…?」
「私の思いをみんなに届けて。
絶対に助けに行くからって」
「もちろんです――ハッピー!」
着地のタイミングを取れず、バランスを崩しそうになったキュアハッピーの手を引く。
その瞬間、強烈な思いがキュアエコーの中に飛び込んできた。そしてその思いは、四人へ瞬時に伝わった。まるで隣にいるかのようだった。
〈ハッピーが頑張ってる〉
〈あたしたちも頑張らなきゃ〉
〈このような牢など、すぐに脱出してみせます〉
〈よっし、みんな、行っくでぇ!〉
それが彼女たちの力を引き出す。同じことがふたりにも言えた。
「エコー、お願い」
「はい。
プリキュア ハートフル・エコー!」
「プリキュア ハッピー・シャワー!」
ハートフル・エコーの光のドームが辺りを包む。その中でジョーカーらしきそれは出口を探していた。邪悪なものはこの光のドームの中にいるだけで力を弱めてしまう。
そこをハッピー・シャワーが見舞う。それはうめき声を上げた。
光の粒子がドームを満たす。浄化が成功したのだろうか。
キュアハッピーの表情は厳しい。
キュアエコーも違和感を抱いていた。激しい戦いをしていながら、敵の「思い」が漏れて来ない。あるいは、あれは生きていないのかもしれない。
(つまり、どう出るもわからない、ということ――)
キュアエコーは身構えたが、遅かった。背後からあの泥が飛んできてふたりの体を捉えた。
「ハッピー!」
「エコー!」
抜け出そうともがく。だが、当然のこととはいえ、それはただの泥ではない。ゴムのように伸びて切れないし、逆に革のベルトのように締まって来る。
〈あか…、ハ…ピーが捕…った!〉
〈逃…て!〉
〈…コー!〉
〈こ……に来…は…けま…ん!〉
遅かった。
やがて、泥も見えなくなり、辺りは何事もなかったかのように静かになった。ジョーカーによく似たそれも姿を消した。
最終更新:2017年02月14日 21:25