「幸せ記念日」/◆BVjx9JFTno




ぎりぎりまで、弱火にする。
強火だと、すぐに焦げてしまう。


練り上げたものに、牛乳を少しずつ入れ、
かき混ぜながら温める。


「牛乳は、少しずつ入れてね」
「はい」


ラブと私で、お母さん直伝の
ココアを作ることにした。


ゆっくりと、練ったココアを
溶かして、温める。


沸騰する寸前で火を止め、
カップに注ぐ。


やわらかい香りが
立ち上ってきた。


「わぁ、いい香り」
「わはー、もう待ちきれないよ!」






テーブルを3人で囲む。


カップに息を吹きかけ、
ひと口飲む。


ココアの優しい甘さと、
ミルクの風味。


体の中が、ふわっと
温かくなる。


「おいしい...」


「うん、いい味。ふたりとも合格っ」


「やったー...あちちち」


勢いよく飲んだラブが舌を出す。



お母さんと私は、
声を上げて笑った。



今日は、忘れられない日。







全てを失った私を
受け入れてくれた、家族。


それでも、心のどこかで、
時々わき上がる思い。



負担をかけている。


迷惑をかけている。


居るべきではない。



無意識に、心に力を
入れていた。



でも。



暮らすうちに、
だんだん解ってきた。


私に注がれているのは、
同情でも、哀れみでもなく、


純粋な、家族としての愛情。


ラブと同じ、桃園家の子として
褒め、叱ってくれる。



そして。





私の、大事な娘。



一片の曇りもない瞳で、
そう言ってくれた。



心に入れていた力が、
ゆっくりと抜ける。



もう、抑えなくていい。


私は、ここの家族。


お母さんの、娘。



泉のように、
感情があふれる。



ずっと、言いたかった言葉。


短いけど。


単純だけど。



ようやく、言えた。






ドアが開く音がした。


「ただいまー」


ラブと私は、打ち合わせした通り
声を揃えて言った。



「おかえりなさい、お父さん」



お父さんが、びっくりした顔をして
私たちとお母さんを交互に見ている。


お母さんが、軽く頷いている。



「ち...ちょっと着替えてくる」


あわてて廊下に行くお父さんの声が、
少し震えているようだった。



「今日は、桃園家の幸せ記念日ね」


「家族みんな、幸せゲットだね!」



私は少し照れくさくなって、
カップに残ったココアを飲み干した。


体も、心も、温かい。



私とラブの手首で、ブレスレットが
軽い音を立てる。



新しい、幸せのもと。



ラせ1-13は、ラブ視点でのもうひとつの後日談