「マチグヮー」/◆BVjx9JFTno




帰りの飛行機まで、自由行動。
私とラブは、近くの市場に出かけた。


見たこともないような、
鮮やかな色の魚。


豚の足。


土埃を被った野菜。


四つ葉町のスーパーとは違う、
ざわざわとした雰囲気。


目に映るものすべてが、
めずらしい。





「おみやげに、これどうかな?」


「ひっ...!」


ラブの方を振り向いた私は、
思わず大声を上げてしまった。


大きな豚の顔の皮が、
目の前にあった。


「もう...おどかさないでよ!」
「あははは、ごめんごめん!」


同じような顔の皮が、いくつも奥に
ぶら下がっている。


肉屋さん、八百屋さん、魚屋さん、
食堂もあり、混沌としている感じが
かえって心地良い。



ふと振り返ると、
ラブの姿が無かった。


さっきまで、一緒にいたのに。


「ラブぅ?」
「ここだよ!」


隣の食堂の中から、
声が聞こえた。


中に入る。


ちょうどお昼どきで、
店内はお客さんでいっぱいだった。


厨房で、おばさんが忙しく
調理をしている。


その横に、前掛けをして
野菜を切っているラブが目に入った。


「どしたの?」


「いやぁ、何か忙しそうだったから、
 ちょっとお手伝いしたくなって...」


「お連れさんかい?
 このお嬢ちゃん、筋がいいよ」


おばさんが豪快に笑いながら話す。



お客さんはとぎれることなく、
続々と入ってくる。


カウンターに、出来上がった料理が
次々と並んでいく。


ラブのお手伝いエネルギーに、
私も乗せられてしまった。


「私も、手伝います」


出来上がった料理を、
テーブルまで運ぶ。


空いた席のお皿を片付け、
テーブルを拭いて、次のお客さんを
案内する。



「おぅ、今日はかわいい
 お手伝いさんがいるねぇ」


「そうよ。今日だけ看板娘。
 助かってるわぁ」


外に聞こえそうなくらいの大声。


少し照れる。



お客さんの回転も、
ようやく落ち着いてきた。


「ふう...」


ラブと私は、汗だくになって
椅子に座り込んだ。


「お嬢ちゃん達、ありがとうね。
 これ良かったら食べてって」


目の前に、大きな皿が置かれた。


「これは何ですか?」
「ゴーヤーチャンプルーよ」


ピーマンのような緑色に少しひるむが
ひと口、食べてみる。


苦みが口に拡がるが、卵の甘みと
ハムの塩気で、やさしい味わいに変化する。


「すっごくおいしいわ!」
「わはー!これ最高だよ!おばさん!」


薄切りの人参も入っているが、
ラブは気にせず、もりもり食べている。


私は、味付けの方法をおばさんに聞きながら
頭の中にメモしていった。


これなら、ラブも人参食べられそう。




おばさんが、奥から
三線を持って来た。


「お嬢ちゃん達に、ちょっとサービスね」


二度ほど咳払いをし、おばさんが
三線を奏で、歌い始めた。


独特の音階と、抑揚。


心にしみるような声。


この島に来たときは、単純に陽気な
音楽に聞こえた。


昨日行った摩文仁の丘で、この音楽が
ただ陽気なだけではないことを知った。


悲しみや辛さを乗り越え、今ある命を
慈しむように奏でられる音楽。


この島の人は、みんなこうやって
色んなことを乗り越えてきたのだろう。




曲が変わった。


速い拍子で、三線が鳴り響く。


ふと見回すと、店内は再び
人であふれていた。


歌が始まる。


手拍子。


指笛。


足踏み。



みんな手をゆっくり振りながら、
踊り出している。


「これはね、かちゃーしーって言うのよ。
 お嬢ちゃん達も一緒にどうぞ」


おばさんが歌の合間に
笑顔で話す。


躊躇する間もなく、私とラブは手を引かれ
踊りの輪の中に引き込まれた。


輪の中は、もの凄いエネルギーで
満ちあふれている。


見よう見まねで踊るうちに、
とても心地良い気分になる。


ラビリンスには存在しない、
人々が自ら発する、生のエネルギー。


元気が湧いてくる。


ラブも、笑顔。


もちろん、私も。




窓の外に、雲の海が拡がっている。


旅行というものを、はじめて経験した。


違う土地。
違う食べ物。
違う空気。


新しい刺激と、そこに住む人たちとの
ふれあい。


思い出がたくさん詰まった私の心は
今まで以上に幸せで膨らんでいる。


この世界に来れて、良かった。



着陸態勢に入るアナウンスが流れる。



私は座席を戻し、隣で眠るラブの
ほおをつついて起こした。


帰ったら、おじさまとおばさまに
たくさん話しようね。