「i got the power」/◆BVjx9JFTno




昼間の日差しは、
秋とは思えないほど強い。


砂ぼこりが舞うグラウンドで、私は
赤い鉢巻きを締め直した。


短距離走のタイムが良かった私は
クラス対抗リレーの最終走者に選ばれた。



「頑張ろうね!」
「練習通りに出来るといいな!」


気合いが入るみんなに対して、
私は、気が重かった。







リレーという種目は、初めて
体験するものだった。


他人と協力して走るなんて
考えたことも無かった。



当然、バトンの受け取りがうまくいく
はずもなく、私は足を引っ張っていた。



私が、みんなに迷惑をかけている。


そう考えるだけで、私の体は
小さく縮こまってしまう。



そんな私に、チームのみんなは
夜まで練習に付き合ってくれた。


ラブも、家や通学路で
毎日、練習相手になってくれた。







号砲が鳴り、スタートした。


歓声が、急に大きくなる。


緊張する。


体が硬くなる。



頭に、次々と浮かんでくる。


バトンパスを失敗する光景。
転倒する光景。


落胆。
失意。


こんな気分では、うまくいくものも
うまくいかない。



いけないとは思いつつ、
下を向いてしまう。


気が、さらに重くなる。







体操着のズボンのポケットに
何か入っている。


取り出してみる。


いつの間に入れられていたのか、
小さく折りたたまれた紙が2枚。



ゆっくり、開く。



「一緒に頑張ろうね!」
「めざせ1番!」
「いいとこ見せちゃおう!」


チームのみんなの字。
寄せ書きのようなメッセージ。



もう1枚。


「せつななら、できるよ!
 精一杯頑張って、幸せゲットだよ!」



ちょっとくせのあるラブの字は、まるで
目の前で話しかけてくれているようだ。






顔を上げる。


砂ぼこりの中、必死で走り
バトンを繋ぐ、みんなの姿。


前の人の思いを、胸に。
自分の思いを、次の人に。



立ち上がって、応援席を見る。


ラブと、目があった。


強い光を放つ瞳で、
ぐっと親指を立てている。



せつななら、頑張れるよ。



重い気持ちが、消えた。
心に、火が灯る。






スタートラインにつく。


他のチームが、次々と
私の横をすり抜けていく。



私に渡るバトンが、
近づいてくる。



前を見た。


自然に、スタートを切った。


手を、後ろに伸ばす。


バトンが近づいてくるのがわかる。


スピードが、シンクロする。


ファールラインぎりぎりで、
バトンが手のひらに触れた。


ぎゅっと握る。
弾かれるように加速する。



ワッと大きくなった歓声は、
すぐに後ろに飛んでいった。






みんなの思いが、
バトンに詰まっている。


全力で飛ばす。


追い抜く。


1人。


2人。



私のクラスの応援席に
近づいてきた。


大きな声援が耳に届いた。


「せつなちゃーん!」
「東さーん!」
「飛ばせー!」


ひときわ大きく聞こえる、
ラブの声。


「せつなぁ!」
「行けー!」






不思議な感覚を、味わっている。



全力で走っているはずなのに、
力が、まだ湧き出る。


心が、歓喜している。
体が、躍動したがっている。


もっと速く。


もっと速く!



限界を超えて、加速する。
体が、ぐんと前に出る。



息をしているのかどうかすら、
わからない。



前を走る人の背中が、近づく。


並ぶ。



張られたままの、
ゴールテープが見える。



まだまだ!


もっと速く!



一気に、駆け抜けた。



かはっ、と、息を吐き出す。


足から力が抜け、私は
トラック上に倒れ込んだ。







商店街を、夕日が
赤く染めている。



私とラブは、心地良い疲れを感じながら
ゆっくりと歩いた。



胸元のメダルが、留め金に当たって
カチンと音を立てる。


金色が、夕日を反射して
まぶしい。



「いやぁ、すごいよ、せつな!
 あたし感動しちゃった!」


ラブが振り返り、自分のことのように
はしゃいだ。もう何度目だろう。



僅差で、先頭をかわしきったらしい。



息があがったままの私に、
チームのみんなが次々と抱きつく。


耳をつんざくような歓声。



それで、はじめて優勝だと
いうことに気がついた。







クラスの応援席に戻った私達は、
みんなにもみくちゃにされた。


チームのみんなも、クラスのみんなも、
ラブも、私も、笑っているのか
泣いているのか、解らなかった。



「ラブが言ってくれた通りだったわ...」
「ん?」



「応援してくれる人が居るから、
 力が湧いてくる、って...」



ずっと前。
ナキサケーベの向こう側から、
ピーチに言われた。



「ありがとう、ラブ」


「うん...にはは...」


ラブが人差し指で
ぽりぽりとほおを掻く。



「さ、早く帰ろ!今日はごちそういっぱいだよ!」


「ええ、そうね!私もうお腹ぺこぺこ」



私とラブは、家までもうひとっ走り
することにした。