はーちゃんの恋愛禁止令/makiray




「ねぇ」
 冷凍ミカンの出荷も無事再開、みらいたちは帰りのカタツムリニアに乗っていた。何かを考えていた ことはが首をかしげながら言った。
「『こい』って何?」
「え?」
 みらいとリコが声を揃える。何の話だか分からない。
「水晶さんが言ってた。
 アイスドラゴンさんが『こい』をして、それでため息が出て、冷凍ミカンができたんでしょ?」
「あぁ、その話」
「冷凍ミカンに必要なものなのかな。お料理の時の、お塩みたいなもの?」
「…」
 苦笑するしかない みらい。恋を砂糖にたとえるのは聞いたことがあるが。
「それはね」
 口を開いたのはリコだった。いつものように胸を張っている。
「それは。
 えっと。
 …」
 リコは列車の天井を見たまま、やがて冷や汗を一筋流した。
「リコ?」
「ちょっと待って。今、説明するから」
「無理はしなくていいんじゃないかな」
「無理なんかしてないし!」
 思わず立ち上がるリコ。しかし、集中する視線にやがて耐えられなくなり、すいません、と言って座り込んだ。みらいが引き継ぐ。
「私もよくわからないんだけど、誰かのことを大好きになるってことだよ」
「そうなの?
 じゃ、私も『こい』してることになるの?」
「え?!」
「みらいとリコが大好き!」
「あー…」
「その『好き』とは違うのよ」
 やや元気を取り戻したリコが言う。
「その人のことしか考えられなくなるくらい、大好きってことよ」
「うん。
 はーちゃん、みらいやリコと一緒にいると、楽しくて、宿題のこととかも忘れちゃうの」
 それも違う、とリコが額に手を当てながら呟いた。
「けっ。
 なんだかんだ言っても、所詮は子供だな」
 チクルンが、モフルンの頭の上で、耳に寄りかかりながら言った。
「揃いも揃って、恋の一つもしたことねぇやつばっかりってことか」
「チクルンは『こい』をしたことがあるモフ?」
「あったり前だ」
 チクルンは顔の前で指を振った。
「いいか、恋っていうのは、ただ好きってことじゃねぇ。
 その相手のことを、身の危険も顧みず、助けたい、守ってやりたい、って思うくらいじゃねぇとだめなんだ」
「じゃ、やっぱり私も『こい』してる!」
 ことはの力み方は全く変わらない。
「キュアフェリーチェになったときは、キュアミラクルとキュアマジカルのこと、絶対に傷つけさせない、って思ってるもん! モフルンのことだって絶対に守るもん!」
「それは、どっちかってば仕事だろうが」
 チクルンがただでさえ小さい目をさらに細めて言った。
「お仕事?
『こい』じゃないの?」
「じゃぁ、こういうのはどうだ」
「呼び捨てにするくらい仲のいい男はいるか」
「呼び捨て…。
 壮太!」
「お前、そいつのこと好きか」
「うん!」
 みらいとリコは顔を見合わせたが、やがて「これも違う」という結論に至り、揃ってひきつった顔で笑った。
「そうモフ。
 まゆみのことがあったモフ」
 みらいとリコの表情がかげる。まゆみの辛そうな顔は今でもはっきりと思い出せる。二人の胸も痛んだ。あのことで、まゆみと かなの仲が深まったらしいことが唯一の救いだった。
「ねぇ、まゆみとあの人たちはどうしてお友達になれなかったの?」
「お友達…?」
 みらいが聞き返す。
「うん。まゆみがお手紙を渡したでしょ? あの人たちは、どうしてまゆみとお友達になってくれなかったのかな」
(そういうことか)
 ことははわかっていないのではないか、という感じはしたが、そういう理解をしていたのか。
「恋をするとね…」
 リコが口を開く。
「私もよくわからないけど、相手を独占したくなるんだと思う」
「どくせん?」
 ことはがまた首をかしげる。みらいが続けた。
「その人が大好きだって思う。
 その人も、自分のことを大好きだって思って欲しい。
 その人には、他の人のことを大好きだって思って欲しくない。そういう気持ちなんじゃないかな」
 ことはは続きを待っていた。まだ理解していないようだ。
「あのときの、女の子がいたでしょ。
 あの人はきっと、あの男の子に恋をしてる。
 そこにまゆみが入ってきたら、あの子が悲しい思いをする。
 彼は、あの子に悲しい思いをしてほしくない。だから、まゆみの手紙を受け取れなかったんだよ」
「…」
 ことはは、わずかに視線を落とし、真剣な顔で考えていた。やがて顔を上げる。
「『こい』をしたら、お友達になることを、断らなきゃいけなくなるの?」
「そういうことも…あるかもしれないね」
 リコも静かに頷いた。
 そうか、と小さな声でことはが言った。
「じゃ、やっぱり私は『こい』はしてないんだ」
「…。
 どうして?」
「だって、みらいもリコもモフルンも大好きだけど、チクルンがお友達になるのは断らないから。チクルンがお友達になってくれて、すごくうれしかったから!」
 チクルンががっくりと肩を落とした。
「ま、その辺がお前らの限界だってことだ――うわっ!」
 突然、チクルンの体が浮いた。ことはが手にチクルンをのせたのだった。
「脅かすな!」
「大好きだよ、チクルン!」
「お前、いきなり何を――!!」
 ことはは、その抗議に耳を貸さず、チクルンの顔に唇を寄せた。
「あ」
「赤くなった」
「赤くなったモフ」
「ひょっとして」
「恋?」
「恋の始まり?」
「チクルンが恋をしてるモフ?!」
「ちっがーーーう!!」
 確かに赤い。だが、それが恋なのか、からかわれたと思って怒っているだけなのかは微妙なところだった。
「ダメだよ」
 ことはは、左手にチクルンを載せたまま、右手で指さした。
「『こい』をするとお友達ができなくなっちゃうんだよ。だから、チクルンは『こい』をしちゃだめ」
「そういうことじゃねぇって言ってるだろ!」
 ことはは、まるで意地を張る子供を見守るように微笑んだ後、チクルンをモフルンの頭に戻した。チクルンが地団太を踏むと、モフルンは迷惑そうに眉をしかめた。
「あぁ…」
「訂正した方がいいのかな…」
「あたしは、無理、かな」
「私も、よく知らないし」
「お前ら、こいつの教育係じゃなかったのか!」
 チクルンが更に顔を赤くして怒っているが、みな笑ったまま、相手にしなかった。
「まぁまぁ。冷凍ミカン、もうひとついかが」
「ごまかすな!」
 カタツムリニアは、たくさんの笑い声と、ちょっぴりの怒りを乗せてナシマホウ界へと向かった。