「PM2:00」/◆BVjx9JFTno




四つ葉町のはずれにある、
クローバーの丘。


「この辺でいいよね!」
「ええ、眺めもいいわね」


敷物を拡げ、風で飛ばないように
四隅に荷物を置く。


今日はテスト後なので、
午前中で学校が終わった。


美希とブッキーは午後も学校があるので、
お弁当を作って、ふたりで外で食べることにした。






お弁当の蓋を開ける。


コロッケのサンドイッチ。


ラブのアイデアで、この間のコロッケを
縦半分に切って、刻んだレタスとあわせて
サンドイッチにした。


「わあ、見違えるみたい!」
「でしょ!ラブとせつなの合作だよ!」



風に吹かれながら、
サンドイッチを口にする。


パンに薄く塗られた辛子と、ソースの
しみた衣が、パンとよく合っていておいしい。


「うん、すごくおいしいわ!」
「わはー!よかったあ」


満面の笑みで、ラブが喜ぶ。






色んな話をしながら、
サンドイッチを平らげた。


学校のこと。
ダンスのこと。
美希やブッキーのこと。
タルトやシフォンのこと。


いつも一緒に暮らしていて、ほとんど毎日
ベランダや部屋で話をしているのに、
よくもまあ話題がつきないものだと、
自分でも思う。



「ふぅー、満腹満腹」


ラブが敷物の上に寝転んだ。



水筒から注いだ紅茶を飲む。


耳を澄ます。



街の喧噪が遠くに聞こえる。


草が擦れる音。


蝉の声は、もう聞こえない。


見下ろす風景は、あの日と違い、
とても澄みきって、爽やかに目に映る。






「何だか、思い出しちゃうな...」
「何を?」


「あの日...生まれ変わった後、ずっとここに居たの」


「あれから、ずっと?」
「ええ...どうしていいか解らなくて...」


「...ごめん...嫌なこと思い出させちゃった?」
「ううん、今はとってもいい思い出だから...」


あの頃の暑さはすっかり消え、
涼しい風がそよいでいる。




「何だか、不思議...」


「ん?」


「...私たち、闘ってたのよね」


「ふふっ...そうだね」


ラブが、寝ころんだまま
私の方を見つめる。



「でも、あたしにとって、せつなは、
 初めて会ったときから、変わってないよ」



ラブは時々、こういう
はっとするようなことを口にする。






この世界で、紛れ込むために作り出した
東せつなという、仮の姿。


スイッチ・オーバーで交互に変わった、
本当の姿と、仮の姿。



この世界に来てから、ラブと出会ってから、
徐々に、気づかされた。



本当の姿だと思っていたものが、
仮の姿。


仮の姿だと思っていたものが、
本当の姿。



そんなはず、ない。


ひたすら、目をそらしていた。


我が名は、イース。
ラビリンス総統、メビウス様が僕。



目をそらせばそらすほど、
それは日ごとに大きくなり、
やがて身を切るような痛みとなった。



私が、本当の気持ちと向き合えたとき、
本当の姿の私が拾い上げられ、
仮の姿の私は、消えた。



やっぱりイースじゃない。
せつなだったんだね。


心が痛いのは、イースじゃなくて
せつなだから。



ラブには、最初から
本当の私が見えていたのだろうか。







「ラブの、おかげよ...」



返答がなかった。


ラブの方を見ると、気持ちよさそうな
寝息を立てて眠っている。


私は苦笑して、たたんでいた
制服の上着を拡げ、ラブに掛ける。


ラブの口元に、パンの欠片がついている。


もう、あわてて食べるんだから。


おしぼりで拭う。



ラブの、おかげよ。



ラブの唇に、そっと触れる。
口元が、かすかにほころんだように見えた。


触れた指で、私の唇に触れる。


ちょっと恥ずかしくなった私は
思わず、周りを見回した。



お弁当箱を片付け、ラブの隣に寝転がる。
見上げる空は、どこまでも青い。


そよぐ風と、ラブの寝息に包まれて
私のまぶたも、やがて重くなった。



ラせ1-8は、「あの頃」