「記念旅行」/◆BVjx9JFTno




「うわー!きれいー!」
「あったかーい!」

雪山が見える、露天風呂。

身を切るような寒さと、
ちょっと熱いくらいの温泉。

「気持ちいいわね」
「美希ちゃん、温泉ロケみたい」

「わはー広いー!泳げるよ!」
「ラブ!本当に泳がないの!」


ダンス大会の優勝を
お父さん達がお祝いしてくれた。

一泊二日の、温泉旅行。

うちと、美希の家と、ブッキーの家。
みんなで、出かけている。

みんなの、笑顔。
みんなの、笑い声。

いつもより、オーバーだ。


みんな、わかっている。

この旅行から戻ったら、
私は、ラビリンスに帰る。






「いただきまーす!」

テーブルに、乗り切らない
ほどの料理。

お父さん達は、さっそく
ビールで乾杯している。

私たちも、ジュースで乾杯。


「あわてて練習したけど、完璧だったわね!」
「精一杯頑張ったわ!」
「絶対、うまくできるって信じてた!」

「ちょっとラブ、聞いてるの?」
「もふぇ?」

リスみたいに、料理をほおばっている
ラブを見て、私たちは思わず吹きだした。

ダンスのこと。
プリキュアのこと。
ラビリンスでの闘いのこと。

お父さん達も交えて、
遅くまで色々話をした。

ラブがオーバーな身振り手振りで
話すので、どうしても笑い話になる。

でも、それでいいのかも知れない。






お父さん達は、そのまま
眠ってしまった。

私たちは、別の部屋に移動し、
布団を並べた。

寝転がったまま、
とりとめのない話をする。


ふと、会話がやんだ。


「せつなちゃん...」

ブッキーが、口を開く。

「どうしても、行っちゃうの...?」
「...ええ...」

「...寂しいよ」

「ブッキー!言わないでよ!
 みんな、我慢して、るん...だから...」

美希の声が、途中で震えだす。






体を起こす。

差し込む月明かりが、
部屋を青白く照らしている。

「私、今とっても幸せなの...」

胸に、手を当てる。

今でも、感じる。
みんなの、暖かい思い。


「ブッキーからは、笑顔になれることを
 教えてもらった」

ブッキーが、下を向いたまま
鼻をすすり出す。


「美希からは、私がここで
 一人じゃないことを、教えてもらった」

握りしめた、美希の手に
しずくがひとつ、落ちる。


「そして、ラブは、本当の私を
 ずっと見つめてくれて、拾い上げてくれた」

ラブの大きな瞳から、
涙があふれる。






「今度は、私が伝える番だと思う」

視界が滲む。

私も、寂しい。

だけど。


「みんな、ありがとう。
 本当に、大好き」

みんなが覆い被さってきて、
私はまた布団に倒れ込んだ。

「また、いつでも会えるわ...」
「でも...!」
「寂しいよ...!」
「せつな...!」

ひとしきり、みんなで泣いた。

その後も、笑ったり、また泣いたり
しながら、色んな話をした。

いつの間にか、眠っていた。
みんなで、手を繋ぎながら。

この手は、繋がっている。

これからも、ずっと。





帰りの電車は、静かだった。

ラブも、美希も、ブッキーも
よく眠っている。

私は、ボックス席の端で
お母さんと外を眺めていた。

「せっちゃん...」
「はい」

「せっちゃんの部屋、
 そのままにしておくからね」

「え...?」

「いつでも、帰ってきていいからね」
「お母さん...」

「気をつけて、行ってらっしゃい」

私を見る、お母さんの表情。

初めてクローバーの丘で出会った
あの表情のまま。

さようなら、じゃない。

行ってらっしゃい。


私の帰る場所は、ここにもある。

ゆうべ枯れたと思った涙が、
また、あふれる。

口を押さえ、声を殺して泣いた。

お母さんが私の頭を
胸に抱き、髪を撫でてくれる。

ありがとう。

私は、ずっと
お母さんの、娘です。