「First Strike」/◆BVjx9JFTno




小さな歩幅で、小走りする。

途中で、止まってしまう。

落とすように放ったボールが、
よろよろと進む。

勢いはすぐに消え、
横に転がる。

溝を転がっていくボールに背を向け、
ブッキーが苦笑いで戻ってくる。


「なかなか、うまくいかないな...」


ラブも、美希も
微妙な表情。

「うーん、もうちょっと強く投げるといいと思うよ...」
「そうそう。まっすぐね...」

「うん...」



もう一投。

腕だけ、無理して振っている。


ボールが、今度は反対側の溝を
よろよろと滑っていく。

スコアボードの「G」の横に
「-」が光った。


「わたし、センス無いなぁ...」


ブッキーが、肩を落として
戻ってくる。



美希が、続いて投げる。

ピンが倒れる、高い音。

「すごーい!美希たんダブルだよ!」
「すごいね、美希ちゃん」

ハイタッチするブッキーも、笑顔。


無理して作った笑顔は、
すぐにわかる。



笑顔になれることを
教えてもらった。


一歩、前に進む
勇気をくれた。


こっそり練習したダンスは、
私に合わせて、踊ってくれた。


今度は、私の番。


席を立ち、
ブッキーのそばに行く。


「ブッキー」
「はいっ」

ブッキーが弾かれたように
顔を上げる。


ごめん。

ちょっと強い調子に
聞こえちゃったかな。

「ちょっと来て」

手を引き、ボール置き場の
後ろに行く。



「ずっと見てたんだけど、
 足の運び方だと思うの」


ブッキーの後ろに回り、
手を取る。


脇を締めて、
ボールを構えて。


左足から、踏み出して。


1歩目で、腕を伸ばして
ボールを前に出すの。

2歩目で、力を抜いて
ボールを下に。

3歩目で、反動を使って
ボールを後ろに。

4歩目で、体を少し下に沈めて。

5歩目をぐっと前につき出して、
ボールを押し出すの。



「いっしょに、やってみて」
「うん...」


1,2,3,4,5。
1,2,3,4,5。


「せつなー、投げる番だよー」
「ごめん、私とブッキー、スキップお願い」


1,2,3,4,5。
1,2,3,4,5。


ゆっくり、何度も何度も
繰り返す。


1,2,3,4,5。
1,2,3,4,5。

ぎこちなかった動きが、
だんだん私と合ってくる。



どれくらい、
続けただろうか。

フォームが、固まってきた。

「やってみましょ」
「うん」


フロアに戻る。

ゲームのスキップを解除し、
ブッキーを促す。


構えたまま、じっと
前を見ている。


後ろから、声をかける。

「大丈夫、いけるわ!」


ブッキーがうなずく。



1,2。
ボールを前に出し、下げて。

3,4。
ボールを後ろで、ためる。

5。
ぐっと踏み込む。

ためた反動で、ボールが前に
すっと押し出された。


スピードは無いが、
まっすぐ、転がっていく。


「あっ!」
「えっ?」

ラブと美希の、驚いた
声が聞こえる。


ヘッドピンの、少し横に当たる。

ピンが、パタパタと倒れる。

残り、1本が
ぐらぐらと揺れている。


「お願い...!」



ピンの揺れが大きくなり、
パタリと、倒れた。


「STRIKE!」

画面に映し出される。


「きゃーっ!!!」

4人とも、信じられないような声を出して
飛び上がってしまった。


「完璧ね!ブッキー!」
「すごいよブッキー!ストライクだよ!」

みんなとハイタッチを交わした後、
私の手を取って、ぴょんぴょん跳ねている。

「わたし、初めて!初めて!」

大きい瞳をさらに開いて、
こぼれ落ちそうな笑顔。

「ありがとう!せつなちゃん!」

ぎゅっと握られた手から、
どれほど嬉しいか、伝わってくる。


少し前までは、決して
味わうことのなかった感覚。

むずがゆいような、
暖かいような、

とっても、嬉しい感覚。



「よーし、あたしも負けないぞー!」


全力で投げたラブのボールが
勢いよく溝を転がっていく。


「うわ、すごい速度」

美希が、顔を覆う。

その仕草がおかしくて、
ブッキーと、声を上げて笑った。



私の番が回ってきた。

レーンに向かう。

ブッキーの笑顔を思い出し、
クスッと笑った。

「どうしたの?」
「...ううん、ちょっとね」


幸せなの。


つぶやいた声が、
聞こえたかどうか、わからない。


にんまりしながら、私は
自分の赤いボールを手に取った。