「甘美な傷」/◆BVjx9JFTno




こいつか。


私はプリキュア達と一緒にいる女を睨んだ。


プリキュアが4人いるらしいという情報は
ウエスターから聞いていた。


プリキュアの3人が集う場所であれば、
4人目のやつとも会っているだろう。


読みが的中した。



こいつから始末してやる。


体を素早く寄せたつもりだったが、
あと少しのところで、ラブに逃がされてしまった。


追いかけようとする私たちに、
プリキュアの3人が立ちはだかった。






3対3。



ウエスターとサウラーが、それぞれの相手に
狙いを定めて襲いかかる。


私は、キュアピーチと対峙した。
この世界での私、東せつなに
心を許している、馬鹿な女。


今まではナケワメーケに闘わせていたが、
今日は直接、お前の力を見てやる。



キュアピーチが地面を蹴り、
私に向かってくる。


遅い。
体をちょっとずらすだけてかわせる。


反転して向かってくる前に、私は地面を蹴り
キュアピーチの懐に潜り込む。


肘。
キュアピーチが吹っ飛ぶ。


地面を蹴り、左足を放つ。
キュアピーチの体が、ボールのように飛んだ。


跳躍し、キュアピーチが落下する前に
反動をつけた踵を振り下ろす。


キュアピーチが地面に叩きつけられる。


着地する。
息ひとつ乱れない。







腹が立った。
とても戦闘とは言えない。


向かってくる目には、戦闘で一番
必要なものが宿っていない。


殺気。


戦闘は遊びではない。
目の前の敵を、「物」に変える。


出来なければ、自分が
「物」になり、地面に転がる。



そういう闘いばかり、続けてきた。



何故、お前達が戦士なのか?
憎しみは、無いのか?



思考の間隙をついて、
キュアピーチが体を寄せる。


しまった。
かわすのが、一瞬遅れる。


左足。右の脇腹に食い込む。
右足。左腕のガードでしのぐ。
拳。口のあたりをかすめる。
肘。ようやくかわす。


懐に入り込む。
右、回し蹴り、右。


私の癖のようなコンビネーションだが、
簡単に決まり、キュアピーチはまた
吹っ飛んだ。


調子に乗るな。
腹立たしさが、殺気となって漲る。



始末してやる。







地面を蹴った瞬間、キュアピーチが
身を翻し、走り出した。


追いかける。


何故、逃げる?
闘う気がないのか。



目の前から、姿が消えた。
周りを見渡すと、いつの間にかウエスターと
サウラーが居た。


プリキュア3人が、いつの間にか
私たちを見下ろしている。



囲まれた。



プリキュアから、光線が飛ぶ。
瞬間的に、跳躍した。


光線を、ぎりぎりでかわす。



愕然とした。


個々に闘いながら、離れていても
見事に連携したというのか。


連携する戦闘になった場合は、
私たちはあまりにも不利だ。



「勝負は、預けたわ!」


私たちは、ひとまず
占い館に引き上げた。







自室に戻ってからも、
疑問はつきまとった。


憎しみの無い、戦闘中の瞳。
戦闘中の連携誘導。



強いのか弱いのか、
わからない。



キュアピーチの攻撃を受けた部分が、
鈍く、疼く。



少し、動揺した。



大した攻撃ではなかった。


普段の格闘で受ける肉体の
ダメージには、慣れているはずだ。


相手の、私に対する憎しみが痛みとなる。
私は、それ以上の痛みと苦しみを相手に与える。


相手が自分の視界から消えるように、
痛みも、勝手に消える。


しかし、この疼きは
初めての感覚だ。




脇腹、腕、唇。
ピーチの、いや、ラブの攻撃を受けた部分。


痛くはない。


しかし、残る感触に
憎しみが感じられない。



ラブの手が、脇腹に触れるかのように。
ラブの手が、腕をきゅっと掴むかのように。
ラブの指が、唇を撫でるかのように。


甘美とも言える、疼き。
感じるのは、優しさ。



机の引き出しを開ける。


緑の、ペンダント。


取り出し、軽く触れてみる。
鮮やかに浮かぶ、ラブの笑顔。


『せつなの、おかげだよ!』
『せつなもいつか、幸せゲットできますように!』





「ラブ...」



ペンダントに、唇をつける。



はっと、自分の行為に気づき、
私は舌打ちをした。



くだらない。
優しさなど、いらない。



胸のダイヤに、手を触れる。



メビウス様、お導きを。



いつまで待っても、
答えは聞こえなかった。
最終更新:2013年02月12日 15:05