「GoodNight Kiss」/◆BVjx9JFTno




小さな土鍋の中が、くつくつと煮えている。


卵を回し入れ、軽く混ぜる。
刻んだネギと海苔を散らす。


「これでいいですか?」
「バッチリよ。せつなちゃん上手じゃない」


めずらしくラブが熱を出したので、
お母さんに教えてもらって、卵雑炊を作った。


土鍋と器を盆にのせ、ラブの部屋に入る。


「ラブ、ご飯食べる?」
「うーん...あんまり食欲ないかな...」


「私が作ってみたんだけど...」
「えっ?嘘!今の嘘!あー何かお腹すいちゃったー!」


額に濡れタオルを乗せ、辛そうにしていた
ラブの声が1オクターブ以上あがる。


「ふーふーして!」


起きる気配も見せず、きらきらした目で私を見る。
食べさせてもらう気満々だ。これが目的か。



「はいはい、わかったわ」


スプーンですくい、2、3度息を吹きかけてから
ラブの口に運ぶ。


「んー、おいしいーん」


満面の笑みで、ラブが口をもぐもぐさせる。
この笑顔を見ていると、多少のわがままも
許せてしまう。



残暑も過ぎ、夜は過ごしやすくなった。
開けた窓の外から、小さく虫の声が聞こえている。


ゆっくりと、ラブにスプーンを運ぶ。
静かで、穏やかな時間。



「にははー、風邪ひいて良かった。
 せつなの笑顔ひとり占めだよ」


「そんなこと言ってないで、早く治してね。
 明日は一緒に洋服を見に行く約束でしょ。」



顔を上げ、部屋の鏡を見てみる。


鏡の中の私の顔は、あのときのラブの顔に
よく似ていた。


......


スタジアムの医務室で、私が目を覚ましたときに
そこにあったラブの顔。


全てを受け止め、包み込んでくれるような
その笑顔を見て、闇の底に封じ込めていた
私の本当の気持ちが、抑えきれないほどに
動き出すのを感じていた。


次の瞬間、闇が、心を縛る。
あの時の私は、ラブがくれた水を払いのけ、
医務室を飛び出し、自棄のように
最後のカードを天井に向けて放った。



死んでもいい。
どうなってもいい。


死ぬなんて嫌。
ラブとお別れなんて、嫌。


ふたつの思いが、音を立てて交錯する。
心に、体に、激痛が走る。


心の激痛は涙になり、
ナキサケーベの力は増大する。
増大した力は棘となり、
さらなる激痛として私に襲いかかる。


なすすべなく、蝕まれる。


そんな闇の底に、ラブは両手を拡げ、
再びあの笑顔で舞い降りてきてくれた。


......


風邪薬を飲ませ、電気を消して
ベッドの横に座る。


布団の中に手を入れ、ラブの手を握る。


「寝るまで、こうしててあげる」
「うん。ありがと、せつな。」


薬が効いたのか、ほどなく
ラブの規則正しい寝息が聞こえてきた。


薄闇の中、もう一度、鏡の中の私を見る。


大切な人を見つめるときって
こんな表情になるんだね。



私は、しばらくラブの寝顔を見つめた後、
ラブの夢にこの想いが伝わるように、
こっそり口づけをした。



ラせ1-5は、ラブ視点
最終更新:2013年02月16日 00:48