「まだ見ぬ未来」/競作スレ3-182様




「ラブ、お待たせ」
「美希たん、遅刻~」
「ごめん、撮影が押しちゃって。それより、話って?」
「……うん。あのさ、美希たんの夢って、なに?」
「もちろん、世界を股にかけて活躍するモデルになることよ」
「だよねぇ」
「だけど、なんで急に夢の話?」
「学校の宿題で、今度『将来の夢』を発表しなきゃいけないんだ」
「そんなの簡単じゃない」
「や……実はそんな簡単じゃないんだよね」
「だって、ラブはプロのダンサーになるんでしょ? いつもそう言ってたじゃない」
「まあ、そうなんだけど……」
「もう! いったい何なの? うじうじしててラブらしくないわね。はっきり言いなさいよ」
「今は、もいっこ、あってさ。迷ってる」
「迷って……る?」
「いや、迷ってはないかな。ただ、クラスの発表では言えないってゆーか、言いたくないだけ」
「ヒミツの夢なの?」
「ん……そんなとこ」
「それ、ひょっとして、せつなに関係してる?」
「……美希たんってば、相変わらずスルドイ」
「アタシを誰だと思ってんの? 蒼乃美希さんよ!」
「あは! ナントカって芸人みたい」
「ちょ、うるさいわね! とにかく、ラブの考えてることなんて、この美希さんにかかれば一発でわかっちゃうってことよ」
「やっぱそっか~……」
「ラビリンスにいるせつなのそばで暮らしたいとか、皆を幸せにするせつなを自分が幸せにしたいとか、どうせそんなところでしょ」
「……美希たん、そこまでお見通しだと、幼馴染み通り越してあたしのお母さんだよ……」
「あんたがわかりやす過ぎるの!」
「あたし、そんなにわかりやすい?」
「せつながいなくなってから、明るく振る舞ってるつもりなんでしょうけどね」
「タハハ……読まれてたか」
「隠してるつもりだったかもしれないけど、アタシやブッキーには通じないわよ」
「ブッキーにも?」
「もちろん。あの娘、ああ見えて時々アタシよりもスルドイんだから」
「そっか……」
「いつ行くの?」
「中学卒業したら、すぐ」
「え、そんなに早く?」
「だって、もう我慢できないんだもん。せつながいない世界なんて」
「プロダンサーの夢、捨てちゃうの?」
「まさか。でも、それはラビリンスでも叶えられる夢だから。だけど、もいっこの方は、こっちじゃ叶えらんない」
「……せつなを幸せにすること?」
「正確に言うと、あたしが幸せになりたいんだ。あたし、せつながいないとダメだって、わかっちゃったから」
「……うん、そうよね」
「だから、行くね」
「寂しくなるわね」
「美希たんもいつか来てね。ラビリンスに」
「アタシも?」
「だって、世界を股にかけるモデルになるんでしょ? 異世界くらい、どってことないよ」
「……そうよね」
「ブッキーも連れて遊びに来て」
「行くわ、絶対」
「あ~。ずっと言えなかったけど、やっと言えた。スッキリした! 美希たん、今までありがとね」
「やめてよ! 気持ち悪い」
「だって、感謝してるんだもん」
「ブッキーには、いつ言うの?」
「うーん……」
「あの娘のことだから、どうせ気づいてるに決まってるわよ。ラブが隠し事してること」
「ブッキーに泣かれたら、弱いんだよねあたし」
「ブッキーが泣いたくらいで鈍っちゃうような、そんなもろい決心なの?」
「違うよ」
「じゃあ、ちゃんと話してあげて」
「そうする」
「カオルちゃんのドーナツでも食べてく? アタシのおごり」
「やた!」
「今日だけトクベツよ」
「ええ~今日だけなんてけち臭いな。どうせあとちょっとなんだし、毎回おごりでいいじゃん」
「んもぅ! 調子に乗らない! これだからラブは」
「カオルちゃ~ん、アタシ5個」
「あいよ!」
「ちょっと! 5個もおごるなんていつ言ったのよ!」
「何個までなんて言ってなかったくせに」
「ったく……食いしん坊なんだから」
「ん~、いつもより美味しい~。美希たんのおごりのドーナツ、ホント美味しいな~」
「なんか、はめられた気がするわ……」



わかってた。
植え込みの陰で、ふたりの会話をコッソリ盗み聞きしながら、祈里は心の中で呟いた。

わかってたよ。
ラブちゃんがわたしよりも先に、美希ちゃんに話すこと。
ラブちゃんがわたしや美希ちゃんよりも、せつなちゃんを選ぶこと。

わかってたけど、それでも――。
美希ちゃんと一緒に打ち明けて欲しかったな。

涙がじわりとにじむ。
もう、泣いちゃダメ。

わたし、そんなに弱いのかな。
ラブちゃんの決心を受け止められないくらい、弱く見えてるのかな。

強くなりたい。もっと。
ラブちゃんに、ちゃんと話してもらえる相手になれるくらい、強く。

涙でにじむ瞳をぬぐって、立ち上がる。
ふたりのそばに近づいて、言ってやる。

「ラブちゃんと美希ちゃんの、バカァ!」

ラブが眼を白黒させてドーナツを詰まらせ、慌てた美希が飲みものを飲ませる。
カオルちゃんの笑い声が響く。
ちょっとだけ、仕返しをした気分になれた。



「お母さん……」
ラビリンスのせつなのもとには、あゆみからの手紙が届いていた。
せつなが帰還してから、定期的にシフォンの力で届けられた手紙たち。
その中にはラブや美希や祈里の他に、あゆみからのものも多数あった。
あゆみからの最新の手紙には、ラブがいよいよラビリンスに行きたいと打ち明けたから、せつなにラブを頼みたい、そんな内容だった。

わたしなんかにラブを任せて、本当にいいの?
その疑問を、せつなは何度となく手紙であゆみに送ってきた。
でも、あゆみからの便りには、決まって一言。
「娘にしか娘のことは頼めない。せっちゃん、ラブをお願いね」
この一点張りなのだ。

ラブがいつラビリンスに来たいと言い出すかわからない。
だから、せっちゃんもその日に向けて心の準備をしていてね。
あゆみからそんな手紙をもらった日から、覚悟はしていた。
でも、本当にそんな日がくるなんて……。

娘として可愛がってもらった日々を、わたしは永遠に忘れない。
お父さん、お母さん。
大好きな人たち。
そんな幸せをくれた人たちの娘を、わたしは……。

久しぶりにリンクルンに手を伸ばす。
懐かしい番号にコールすると、相手はたったワンコールで出た。

「待ってたよ。こっちから掛けれないんだから」
「ラブ、わたし奪えないわ。お父さんとお母さんから、あなたを奪えない」
「奪うんじゃないよ。ちょっと離れるだけ」
「ちょっとじゃないでしょう」
「アカルンがいるもん。せつなは自制してるんだろうけど、ホントは来れるの知ってるんだよ」
「そうは言っても、異世界なのよ。ここは地球じゃないし、四つ葉町じゃない」
「そんなことわかってる。それでもいい。もう、せつなのいない世界にはいられないから」
「ラブ……」
「あたしを嫌い?」
「嫌いになれたらどんなにいいか」
「嬉しい」
「でも、ラブの夢はどうするの? ダンサーになる夢、わたし潰したくないの」
「せつな、せつなはラビリンスの人たちを幸せにしたいんでしょ? あたしはせつなを幸せにしたい。せつなと幸せになりたい。せつながいないと、あたし何にも出来ない」
「バカね……」
「うん。ごめんね、こんなバカで」

笑い合う。
リンクルン越しだけど、抱き締め合えてる気がした。
決めた。
ずっともやもやしていたけれど、もう迷わない。

「迎えに行くわ」
「卒業式の後、あの丘で待ってるから」

あの日、あの丘で。
あの町を、愛する人たちを思った。
ラブを思った。
別れを告げたはずだった。
でも、そうじゃなかった。
ラブはずっとずっと、先を考えていた。
わたしも先を見よう。見てもいいんだ。
ラブとの未来を。