つまりツインズ/makiray




「お姉さま、お茶が入りましたわ」
「…。
 え?」
 レジーナは顔を引きつらせながら、次のカップを取りに戻った亜久里の背中を見ていた。
 それはマナたちも同じだった。一体、何が起こったのだという空気が、ソリティアの二階を満たす。
 すべてのカップを運び終わった亜久里は、お茶を淹れていたありすとともに席に戻ってきた。ありす以外全員の目が亜久里を追っている。
「お姉さまはお砂糖二つでしたわね」
「…」
「ミルクはこちらですわ、お姉さま」
「なんなのよ、さっきから!」
 ついにレジーナが怒鳴った。
「どうなさったのですか、お姉さま」
「だから、それは何よ!」
「何とおっしゃいますと」
「あんた、あたしのこと馬鹿にしてるでしょ!」
「いいえ。
 だからこそ『お姉さま』とお呼びしてるのですわ」
「それ、禁止!
 絶対に言わないで!
 言ったらひどいんだからね!」
「お姉さま、何を怒ってらっしゃるのですか?」
「うるっさーい!」

 キッチンで亜久里がカップを洗っていると、真琴がやってきた。
「手伝うね」
「ありがとうございます」
 真琴はすすぎの終わったカップを取り上げた。
「どうしたの?」
「何がですか?」
「急に、『お姉さま』とか」
「いつも威張っているので、そう呼んで欲しいのかと思ったのですが、あまりお気に召さなかったようですね」
 かなり落ち着かない気分になったらしく、レジーナはマナにも当たり散らしている。
「ご迷惑をおかけしましたか…?」
「ううん。
 レジーナのああいうところ初めて見たから、ちょっと面白い」
 真琴が言うと、亜久里は笑った。
「実は…。
 夢を見たのですわ」
「夢?」
「私とレジーナが仲のいい姉妹だ、という夢です。
 どういうわけか、私が姉でしたけど」
 それは現実を反映しているのではないだろうか、と真琴は思ったが黙っていた。
「夢の中では、レジーナが『お姉ちゃん』『お姉ちゃん』と言って、私のそばを離れないのです。その笑顔がとても可愛らしくて、私は、この子を絶対に守ろう、って誓いました。
 二人で遊んでいるうちに夕方になって、おばあさまが呼びに来たのですけど、私はそれを怒っているのです。まだレジーナと遊んでいたいのに、迎えになんか来なくていい、と」
「亜久里ちゃん…」
「ただの変な夢ですわ。
 私がおばあさまのなさることに腹を立てるなど、ありえませんから」
 真琴は、その横顔を何も言えずに見ていた。

「レジーナ」
「何よ」
 亜久里が、夕飯の支度のお手伝いがありますので、と帰ってしまうと、真琴はレジーナの向かいに座った。
「もっと亜久里ちゃんに優しくしてあげて」
「嫌」
 レジーナが即答する。
「今日だって、突然、あんなこと言い出して。あいつだって、あたしのこと嫌いなんだから、ちょうどいいわよ」
「そんなことない」
「ある!」
 マナと六花は、真琴が何を言い出したのかわからず、顔を見合わせていた。
「亜久里ちゃんは、あなたと仲良くしたいと思ってるのよ。だから呼び方を変えてみたりして、努力してるんじゃない」
「そんな努力、頼んでないもーん」
「合わないはずがないのよ。
 あなたたちは元は一人なんだから」
 また、マナと六花が顔を見合わせる。今度は、ありすも視線を動かした。
「元は一人でも、正反対だもん」
「あなた、それでいいの? 亜久里ちゃんとああやって喧嘩ばっかりして平気なの?」
 苛立ったレジーナが立ち上がる。マナがなだめようとするが耳に入っていない。
「うるさいわね!
 真琴は、あたしたちがアン王女の生まれ変わりだからそうやってごちゃごちゃ言うんでしょ。でも、あたしたちは――」
「あたしのことは関係ない!」
 真琴も立ち上がった。
「あなたたちの話をしてるのよ。
 どっちが上か知らないけど、たった二人の姉と妹でしょ?」
「あたしが上に決まってるでしょ!」
「だったらお姉さんらしくしたら?」
「あんなおチビ、相手にする必要なんかないも――」
「もういい!」
 真琴が怒鳴った。ありすの顔が厳しさを増す。
「あなたが本当に亜久里ちゃんのことを嫌いだって言うんなら、それでいいわ。勝手にしなさい」
「するわよ」
「でも、亜久里ちゃんは違う。
 あなたと仲よく遊んでるところを夢に見るくらい、あなたのことが好きなの」
「何よ、それ…」
「それに応えてあげられないんだったら、姉だなんて言う資格はないわ」
 真琴は険しい表情のまま上着を取るとソリティアを出た。
「何よ…」

 一週間後。
 いつものように六人がソリティアの二階に揃う。
 今日の「お茶当番」はレジーナだった。ありすが淹れたお茶をそれぞれの前に運んでいく。
 レジーナは、亜久里の横でカップを持ったまましばらく黙っていた。何か言いたそうに口を動かしているが、言葉は出て来ないようだった。
 そう言えば彼女はずっとそわそわしている。何度か、亜久里に視線を投げては目を逸らす、ということをしていた。
「どうしたのですか?」
 亜久里が顔を上げると、レジーナは何も言わずにカップを前に置くとありすのもとに戻った。
「顔が赤いですわね。
 風邪でも引いたのでしょうか」
 マナと六花は、かすかな苦笑を返した。真琴はレジーナをじっと見ている。
 やがて全員分を運び終わると、ありすとレジーナは席に戻った。
 レジーナが立ち止まる。亜久里の後ろ。
 レジーナは、ゆっくりと、戸惑いながら手を上げると、亜久里の髪に触れた。亜久里の体がビクっとはねる。
「動かないで」
 レジーナは、亜久里の髪を止めていた髪ゴムを外した。思ったより優しい動作だった。亜久里の髪がふわっと背中に広がる。
 ポケットから取り出したのは赤いリボンだった。
 珍しく真剣な顔で、亜久里の髪を整え、リボンを結ぶ。
「これであんたも少しは見られるようになったんじゃないの」
 レジーナの手が離れると亜久里は顔を上げた。正面の真琴が笑っている。
 それでも事情が分からず、誰とも目を合わせないようにしてマナの隣に行こうとしているレジーナを目で追った。レジーナの顔はまだ赤かった。
「あ…」
 レジーナは亜久里と目が合うと、赤い頬のまま顔を背けた。反対に、亜久里の顔に笑みが広がっていく。
「ありがとうございます!」
「少しはあたしのことを見習え、って思っただけよ! 妹なんでしょ!!」
 レジーナは、持ったままだった髪ゴムを亜久里に向かって投げた。
「はい!」
 その笑顔はマナたちにも広がっていく。髪ゴムがありすから六花、そして亜久里へと渡っていった。
「さ、いただきましょう」
 ありすが手を鳴らした。
「今日のお茶はきっと、とびきりおいしい筈ですわ」
 その通りだ、と全員が思った。