セイレーンの頃/makiray




 いつからだったか、ハミィと歌っていて、「なんか違う」と思うようになった。
 下手になったとは思わない。音程もリズムも前よりしっかりしているし、きまぐれなハミィが途中でアドリブを入れようとしてもちゃんとついていける。それくらい、私たちの息は合っていると思う。
 ハミィに聞いてみても「そんなことないニャ。セイレーンの歌は最高ニャ」と私のほっぺたが赤くなるようなことを言うだけで、当てにならない。それは、響も奏も同じ。悪いことは悪いと言ってくれるアコも、どんどんよくなってると思う、と言う。
 その理由がわかったのは、ある夢を見た朝のこと。

 私は猫の姿で森の中を歩いていた。
 今日もハミィと一緒に歌える。それが楽しみで足取りも軽い。
 森の出口の近くに切株がある。そこをステージにして、二人で並んで歌うのだ。森の小鳥や動物たちも楽しみにしていてくれる。
 ハミィの声が聞こえた。もう歌ってる。
 そうしたい気持ちは私も同じ。ここから歌いながら近づいて行って驚かせてやろうかと思った。
 そこに、知らない声が重なった。
 誰だろう。
 私はつい笑ってしまった。合ってない。頑張ってるのはわかるけど、なんか違う。
 でも、本人たちが楽しいのならそれはそれでいい。音楽ってそういうものだから。
 切株。
 ピンクのハート。ハミィの白い尻尾が機嫌よさそうに揺れている。
 隣にいたのは人間だった。
 ハミィが人間なんかと一緒に歌っている。楽しそうに。合ってないのに。
 ハミィの声が胸に刺さった。こんなに楽しそうな声を聴いたことはない。合ってないのに。全然、マッチしてないのに。
 どうして、そんなにうれしそうなの?
 その人、下手なのに。ハミィと一緒に歌っちゃダメな人なのに。
 それは誰?
 その人間は一体誰なの?!

 枕が濡れていた。
 真っ暗な部屋でゆっくりと起き上り、深呼吸をする。
 あれは私だ。
 あの、ハミィとうまく重ならない声の持ち主は私。黒川エレン。
 声は、体を使った楽器だ。体つきが変われば、声も変わる。
 セイレーンの声と、黒川エレンの声は違う。なんの奇跡か、そっくりだけど、どんなに似ていても、同じではない。
 ハミィとセイレーンのハーモニーは最高だった。だけど、それは永遠に失われた。
 今の私たちのハーモニーがどれほど褒めてもらえたとしても、あの頃の私たちのハーモニーは戻ってこない。
 私は、黒川エレンだから。

 あの日から、ハミィが私を「セイレーン」って呼ぶたびに、胸がチクっとなる。