夢と夢 ~ある日のせつなの日記~/こゆき




 喜び。笑顔。仲間。そして――夢。
 かつてのラビリンスには無かったこれらの言葉を、ちゃんとラビリンス語として辞書に載せようって話が、今日の会議で持ち上がった。
 その席上で、サウラーがこんなことを言い出した。
「夢には、起きている間に見る夢と、寝ている間に見る夢がある。ややこしいから、ラビリンス語では違う文字をあてることにしよう」
 でもそれは即座に却下された。ウエスターの放った、この一言で。
「夢は、見た瞬間に半分は叶っているものだろう? ならばどちらの夢も同じだ」
 何を言っているのか、サウラーにも私にも理解できなかった。

 夢は見た瞬間に、半分は叶っている――「叶う」なんて、そんな言葉を、簡単に口にしてもいいのだろうか。

 もしも願いが叶うなら――「起きている間に見る夢」がひとつだけ叶うとしたら、人はなにを望むのだろう?

 私の夢は、ラビリンスを四つ葉町のような笑顔と幸せにあふれる国にすること。
 だったらそれが、私が叶えて欲しいと望むこと、つまり夢だろうか。
 でもよく考えたら、それは余りにも大それたこと。「笑顔と幸せにあふれる国にする」なんて、「すべての人の願いを叶えてください」って言っていることと同じだから。

 ラブなら何を望むだろう? 「プロのダンサーになりたい」って夢?
 いや、ラブはきっとそれを望まない。自分の力で夢を追いかけることも、ラブの大切な夢の一部だから。美希やブッキーだって同じはず。

 夢は「叶えて欲しい」とねだるものじゃなくて、自分の力で実現させるもの。ラビリンスの人たちにとっても、きっと。
 だとしたら、私がやろうとしていることは、ただのおせっかいなのかもしれない……。

 今のは、少し弱気な考えだったかしら。
「精いっぱい頑張る」そう誓ったのだから、ちゃんと前を向かなくては。

 夢と言えば、ラビリンスに戻ってから、イースの頃の夢をよく見るようになった。もっとも、こちらは「寝ている間に見る夢」のこと。
 四大幹部の一人になるために、訓練に明け暮れていた幼い頃。任務のために、四つ葉町の人たちを傷付けた日々。
 ウエスターの言うように、これが「起きている間に見る夢」と同じなら、この悪夢は、イースの夢?

 いや――違う。
 かつての私は、夢を見ることなんて無かった。
 起きている間も、寝ている間も。そんなこと、許されていなかったから。

 過去は振り返るものではなくて、ただ時が過ぎ去っただけ。
 未来は全て決められたもので、私はその通りに生きるだけ。
 でも――本当にそうだったのか?

 苦しくて。孤独で。心が引き裂かれそうで。メビウス様に――見てもらいたくて。
 あの町ではっきりと分かった、イースの願い。
 あの頃は望んでも決して届かなかった、叶わぬ夢。
 だったら私が見る夢は、イースが見ていた夢なのかもしれない。「夢」と「夢」、意味は違うけれど。

 意味が違う――?
 本当に、意味が違うんだろうか。

「夢は、見た瞬間に半分は叶っている」
 意味がわからないのに、一笑に付すことも出来なかった、あの言葉。
 今の私には、私を見てくれる大切な人がいる。かけがえのない仲間がいる。
 それはイースが――かつての私が、夢見たから?
 だとしたら、私のイースとして生きた時間にも、意味はあったんだろうか。
 そして、イースが見た夢を、今の私が夢に見る、その意味は……。

 もしも願いが叶うなら――ひとつだけ夢が叶うとしたら、私は何を望むのだろう?
 ラビリンスを四つ葉町のような笑顔と幸せにあふれる国にすること。 やっぱり、それは変わらない。
 一人で叶えようと思ったら、届かないかもしれない。でも、私が夢見た残りの半分を、みんなも夢見てくれるなら、もしかしたら実現できるかもしれない。
 そうしたら残りの半分で、私は自分だけの夢を探してもいいのかもしれない。

 クローバーの咲く丘から見える、大切な人のいるあの街に、いつか――。