一瞬の内緒 (後)/makiray




「今の話、内緒ね」
「うん」
「特に、亜久里ちゃんには」
「え?」
 アコは真剣な表情だった。ゆりは思わずストレートに聞き返した。
「どうして、亜久里だけ?」
「亜久里ちゃんは、私より辛い筈だから」
「どういうこと?」
「アン王女の魂から生まれたとは言え、亜久里ちゃんは王女じゃない。それに王国ももうない。
 亜久里ちゃんはきっと、将来の夢を考えるたびに、自分が一体、何者なのか、ってことと向き合わなきゃならない」
「そうね…」
「私は悩まなくて済んでる。そんな気楽な話、亜久里ちゃんには聞かせたくない」
 ゆりは視線を上げた。
 亜久里がまた難しい顔をしている。誰かがピントのズレたことを言ったのか、それともからかわれたのか。
「話を聞いてあげるのはいいんじゃないかな」
「え?」
「アコも、さっき気が楽になったんでしょ?」
「それは、そうだけど…」
「亜久里も、そういうことを誰かに聞いてもらいたいって思ってるんじゃないかな」
「自分の気楽な話をしないで、亜久里ちゃんの話を聞くだけ、なんてそんなこと上手くできないよ」
「上手くなくてもいいのよ」
「だって」
「心配なんでしょ?
 亜久里のこと」
 アコはゆっくりと無言で頷いた。
「亜久里は、そういうことをちゃんと理解できる子だよ」
 それに、アコが言ったことは決して気楽な話ではない。近い年齢の友人が、方向は逆かもしれないが同じような悩みを持っている、ということも重要だと思う。
「…」
 アコも視線を上げた。腰に手を当ててマナを叱っている亜久里を見つめる。
「今度、そうしてみる。
 ありがと」
 アコは立ち上がった。駆け出す。
「頑張れ、スーパー小学生」
 ゆりも立ち上がった。
 そろそろ帰る時間だ。
 私の当面の夢は、あの仲間たちが、自分が頑張って引率しなくてもスムーズに移動してくれるようになることだな、とゆりはつぶやいた。