一瞬の内緒 (前)/makiray




「素敵な先生になるぞー!」
「きらきら輝く女優になりまーす!」
「うわ…」
 アコは頬をひきつらせながらその場を離れた。ゆりも苦笑しながら同じことをした。
 久しぶりに仲間のスケジュールが合い、ピクニックに出かけた。
 大騒ぎのお弁当タイムの後、腹ごなしのフライングディスクに飽きると、誰が言い出したのか、遠くの山に向かって自分の夢を叫ぶ大声大会になってしまった。
「可愛い絵本を描くーっ!」
「絶対、総理大臣になるー!」
 アコは敷いてあったレジャーシートに戻ると、まだ残っていたお菓子の袋を片付け始めた。ゆりがゴミ袋の口を広げる。
「子供じゃないんだから」
 ゆりがくすっと笑った。
「ゆりさんも叫んできたらどうですか?」
「私もああいうのは苦手だから」
「あのノリにはついていけない」
「アコの夢は、立派な女王様になる、とかなの?」
 黙って片づけを続けるアコ。ゆりは手を止めた。その視線に気づいたアコも手を止めた。
「それしかないから」
「え」
「メイジャーランドの王女がCAとかスポーツ選手とかありえないし」
「アコ…」
 また片づけを始める。大方、終わるとアコはシートの上に座った。
「やってみたいことはないの?」
 ゆりが隣に座る。
「歌うのは好きだよ。響や奏のピアノで歌ったり、エレンのギターに合わせたり、ハミィと合唱したりするのは楽しい。でも、それを職業にしたいとは思わない」
「そう…」
 アコが続けた。
「パパとママがどういう風に王国のことを決めてるのかは知らないけど、多分、やりがいはあると思うんだ。私にできるかな、っていう不安はあるけど。
 ただ――」
「…。
 ただ?」
 アコは、しまった、という顔をした。一瞬、視線を落とし、口元を何度か動かす。
「迷ってみたかったな、って思って」
「迷う?」
「やりたいことがたくさんありすぎるくらいあって、色々なことを調べて、誰かに相談して、あぁでもないこうでもない、って悩んで迷って、っていうのはしてみたかった、かな」
「女王にはなりたくない、って言ってみたら、できるかもしれないわよ」
「そう思ってないから困るんじゃないですか」
 何を言っているんだ、という顔をする。ゆりが笑うと、アコも笑った。
「だから、辛いとかいうわけじゃない。
 愚痴を聞いてくれる優しい先輩もいるし」
「お役に立てたかしら」
「うん。
 かなり」
 アコは小さな声で言った。
「あ」
 だが、すぐに続ける。
「今の話、内緒ね」



競3-8
最終更新:2016年02月21日 02:06