せつなが吸血鬼だったらな話 パート2/そらまめ




あの日から、何度目かの満月が来た。

ラブに自分が吸血鬼だと知られ、一緒に暮らすことになったあの日から私の日常は変わった。

まず、朝起きてから火を熾す。ということをしなくなった。そんなことをしなくてもコンロの摘みを捻れば火が出るし、自分で材料の調達をしなくても冷蔵庫を開ければ食材が入っているから鮮度の心配もいらない。

また、お風呂が温かい。まあ火を焚いて水を温めれば前にいたところでもできはしたが、如何せん面倒くさいのだ。自分ひとりだけなら行水でいいかと思ってしまい、ついつい水浴びで済ませていた。

それに、布団がフカフカしている。寄せ集めの枯葉やなんやらで作った簡易ベッドもいいにはいいが、やはり羽毛には勝てないようで、いつも熟睡してしまっている。


と、上記の事を住まわせてもらっている感謝と共にラブに言うと、何故だか涙を流して抱きしめられた。

抱きしめられながら、前の場所との一番の違いは、この空間の暖かなぬくもりだとは恥ずかしくて言えないと、そっと苦笑いしながら窓から空を見上げる。

今日も、やってくるのだろう。黄色くて大きなあの月のせいで、まだ午前中だというのに胸がざわつく位だから。それと同時にいつもよりも苛立ちを感じるし、些細な事も気に障る。そろそろ、限界だろうか。


ラブからの血の提供は、ほとんど最小限と言っていいくらいに少なくしている。最初の無意識での半ば暴走したあれのせいで、吸血をするという行為自体に嫌悪していた。いくらラブからの了承があったとしても、本当にぎりぎりになるまでは控えている。

そして、そんな非日常的なことが行われていることは、未だほかの人は知らない。できれば、ずっと知らずにいてほしい。ラブのように受け入れてくれる人ばかりではないとわかっているから。



案の定やってきたのは、丁度おやつ時だろうかという頃だった。騒々しい地響きとナケワメーケを連れてきたウエスターは、今日はナケワメーケと一緒になって攻撃してきた。


「イース!」

「私はもうイースじゃないって言ってるでしょ!」


ウエスターが私を呼ぶ。変わらずイースと呼び続ける彼にいつも以上に苛立ちが募る。いつもより雑な攻撃。当然の事ながらそれは躱されて、逆に死角を作ってしまった私にウエスターからの蹴りが背中から衝撃となって伝わってきた。


「パッション落ち着いて! みんなで連携してナケワメーケを倒さなきゃ!!」

「わかってるっ!」


息を切らせながらピーチ達に並んだ。今の自分が冷静でない事は分かっている。それでも体の内側からくるイライラを抑えきれなくて、奥歯を噛みしめて耐える。


「イース! こちらに戻ってこいっ!!」

「うるさい! 私は戻らないって言ってるだろ!!」


いつもより乱暴な言葉遣い。そのやり取りにみんなはどう思っているだろかと考えても、その反応を見る余裕は今の自分にはなかった。


「余裕が無さそうだな」

「関係無いでしょ」

「今日は、満月だもんな」


そう言って、まだはっきりと出ていない白い月を見上げたウエスターは、いつもとは違って気怠そうだった。横で「満月だと何かあるの?」「さあ?」とベリーとパインが話すのを聞きながらウエスターを睨む。大体私がこうなるのを知っていたから今日襲撃してきた癖に。そういう所も今の私の苛立ちを助長させていた。



「戻ってくる気はないか…」

「当たり前でしょ」

「ならこれをやる」

「っ…!」


少しだけ落胆したような雰囲気をしながら私に差し出したのは、銀色のパウチだった。デザインなどない銀色が日常的ではない仕様を感じさせ、人工さを助長させている。それに入っている中身の液体を私は知っている。血液だ。あの容器からするとラビリンスで支給されているものだろう。


「いら…ない!」

「どうせお前の事だからずっとやせ我慢してるんだろう? でも今日は流石に無理だと思って持ってきた。おとなしく受け取っておけ」

「あなたはもう私の敵なのよ。敵から物を貰うなんて出来るわけないでしょ」

「敵とか味方とかじゃない。だってお前もう、変わり始めてるじゃないか」

「えっ…」


その瞬間、後ろから風が吹き視界の端に髪が映る。プリキュアになっているから桃色のはずの髪が、銀色になっていた。まるでイースの時のように。

ウエスターの背後に月が見える。いつの間にか日が落ちてはっきり見えるようになった黄色く、大きな丸い月。

見てしまった。体がざわつく。動悸が激しい。苦しい。

立っていられなくて、膝を落として地面に手をついた。痛いくらい手のひらを握っても、治まりきらない。


「ぐぁっ……はぁっ…くっ」

「ほらみろ」

「パッションっ!」

「なんで髪の色が…!」

「どこか痛いのパッション?!」


そのうちプリキュアの変身が解けて、代わりにスイッチオーバーした姿になった。


「ウエスター! せつなに何をしたの!!」


未だ地面に俯いて何かに耐えるせつなを庇いながら、ベリーは怒気を荒げて叫んだ。その眼は睨むよりもさらに強くウエスターを射抜く。


「俺は何もしていない」

「ならどうしてせつなはイースの姿になっているの?! なんでこんなに苦しそうなの!!」

「それは今日が満月だからだ」

「茶化さないで!」

「茶化してない。だってイースは…」

「言うな!!」


何かを言おうとしたウエスターを遮るようにせつなが叫ぶ。その声に驚いたベリーが振り返ると、胸に手を当てて苦しそうに、そして悲痛な表情でウエスターを見ていた。そんな反応にも驚いたが、近くにいるピーチがウエスターに対して自分と同じようには追及しない事や、なぜか悲しそうな表情でせつなを見ている事に理解が出来なかった。


「言うな…」

「そいつらに知られたくないのか? 仲間なのに? …よく分からんな。だがそうだな…知られたくなかったら今すぐ俺達のところに戻ってこい」

「なん…で、そんなの…」

「サウラーならこの場面ではこう言うんだろうな。俺はこういうやり方はあまり好きじゃないが、目的は一緒だからまあいいか。どうするイース?」

「そんなの…」


選べるわけない…ラビリンスにはもちろん戻りたくない。ラブは自分の事を知っているからいいが祈里と美希に知られるのも嫌だ。

でも、どちらかを選ばなければいけないというのなら……私は一人になる事を選ぼう。遅かれ早かれこうなるとわかっていたからこそ、今まで必要以上に仲良くなる事を拒んできた。これからは、今までの距離がより遠くなるだけだ。大丈夫。自分は何も失くしてない。だって元々何も持っていなかったんだから。



「せつなの何を知ってもあたし達が仲間である事は変わらないよ!!」

「そうよ。だから脅しにもならないわよ!」

「わたし達はずっとせつなちゃんの味方でいるの!」



「言えばいい……私は何があってもラビリンスに戻るつもりはない。みんなに知られても、私があなた達の仲間に戻る事はないから」


「せつな…!」


ピーチが嬉しそうにこちらを見る。もうラビリンスには戻らない。ただ、ラブ達の元にも居られなくなるだろうから、ラブの眼を見る事は出来なかった。



「そうかい? なら教えてあげよう。イースは君達のようにただの人間ではなく、人の血液を摂取しないと生きていられないのさ。こちらでは吸血鬼と言うんだっけ?」

「え? その声…え? 吸血…鬼?」


脇の茂みからそう言って現れたのはサウラーだった。


「ウエスター、あんまり遅いから見にきてみれば、やっぱりイースにそれ渡すつもりだったんだね」

「うわっサウラー?! えっとこれはその…」

「はあ…全く……ほらもう今日は帰るよ。僕達だって今日はなるべく静かに過ごさなきゃいけないんだから。今日は失礼するよプリキュアのみなさん。イースも、プリキュアを辞めて戻ってくるなら歓迎するよ」

「それは無いわね」

「そうか。じゃあね」


慌てるウエスターとダイヤに戻したナケワメーケを連れて、暗闇に紛れて消えてしまったサウラーが残した言葉は、しばらくの間四人の動きをとめていた。





バキッ!と音がした方向を見ると、ウエスターが壁に穴をあけている。その音は、壁が壊れた音だけなのか、拳が一緒に砕けたのか定かではない。でも、自分たちに限って後者はないか。と、いまだ興奮冷めやらぬ彼を冷やかな目で見ながら紅茶に口をつけた。


「くそっ!! イースの奴!」

「落ち着きなよウエスター。大体こうなることは解っていたんじゃないのか?」

「くっ…!」


断られることを予想していなかったわけではないけれど、あそこまでなって、それでもあちら側にいることが、腹立たしかった。

こちらに適応するよう変えていた姿が無意識に解かれるなんて、それほど切迫しているのになぜあれを受け取らなかったのか。


「俺だって、これは嫌いだけど」


ラビリンスから定期的に送られてくるパック。血液の入ったそれの味が、ウエスターはあまり好きではなかった。無機質な味というかなんというか、そもそも血液の味自体が好きじゃない。あの鉄を噛み砕いているような感じ。だがこれを言うと決まって理解できないといった顔をされるので、いつしか主張することはなくなった。


「君も、そろそろ摂取しておかないとじゃないのか? 最近大食いに拍車がかかっているようだし」

「うっ…わかってる…」


いつからかは覚えていないが、消極的な血の摂り方をしていたら、体がヤバいと判断したのか人より多く食べるようになっていた。それがさらに大食いになると、そろそろ血液が必要だという基準にもなっていて、仕方なくパックを一つ手に取った。


「あー、まじこれまずいわー」

「そんなに嫌なら自分で調達してきたらどうだい?」

「それもなあ…結局同じものだし…」

「まあ僕はどんなものでもどんな味でも必要に応じて摂れればいい。ただ、定期的にというところには煩わしさを感じてしまうけどね」


くしゃっと空になった容器を握りつぶすウェスタ―を横目に、同じように軽くなったそれをゴミ箱に捨て、紅茶を飲む。


「…紅茶には合わないな」


口直しにコーヒーを入れるため立ち上がったサウラーに、締め切られたカーテンの隙間からチラリと月が見えた。









気まずい空気と言うのはこういうのを言うのだろうかと、祈里はチラリと思う。もしくは空気がどんよりしていて重いともいえる。

そう考えてしまうほど、この部屋にいつもの優しい心地よさは漂ってはいなかった。


「あ、あのね…」


ラブがオロオロと視線を彷徨わせた後、小さく口にする。それはどこか、小さな子供が親に咎められる時のように所在なさげで、いつものような勢いはなかった。


「ラブは知ってたのね」


そんな声にいつものように凛とした、ともすればそれよりは低く感じる音程で発した美希の声にビクリと肩があがるラブ。それと同じように、それまで微動だにしなかったせつなの体が少し動いた気がした。


「…うん。知ってたよ」

「いつから?」

「せつながうちで暮らしだすちょっと前から」

「そう」


淡々と、一問一答のように答えては、チクリチクリと体に刺さる空気に、祈里は身動ぎする。

横目に映るせつなは、うつむいた顔をいつまでもそうしていたため、髪に隠れた奥の表情を窺い知る事が出来ずにいる。

吸血鬼。おとぎ話でしか聞いたことがないその単語。空想上の生き物だと思っていた。祈里からしてみればユニコーンや妖精の類と同類くらいの位置にいたそれが、今目の前に居ることに未だ信じられずにいた。だって、せつなはどう見ても自分たちと同じだったから。楽しそうに笑い、おいしそうにドーナツを食べ、言葉を交わし一緒に戦っている。そんなせつなが吸血鬼だというのなら、自分が思っていたよりも吸血鬼という存在は遠い物語のように身構えるものではないのかもしれない。鳥が空を飛ぶように、野良猫が歩くように、何でもない日常の一部でしかないのかもしれない。

そんな風に思うのだ。そう思えるほど、せつなが自分の生活に溶け込んでいて、今更夢物語のように外側の世界には追いやれなかった。


「ウェスタ―がなんか渡そうとしたわよね。あれは何?」

「…あれの中身は…血液よ。ラビリンスで支給されるもので、私達は定期的にあれを飲まなくてはいけない事になってる」


抑揚のないせつなが説明する言葉に、この場にいる全員が耳を傾ける。


「そういう体質だから、こちらに来てかも占い館に居る時は摂取していたわ」

「なら、ラビリンスから抜けた後はどうしてたのよ。まさか町の人を…」

「せつなはそんなことしないよ!!」


美希の言葉を遮って、それまでの声音が嘘のように大声で唸ったのは、まるで絞り出すかのようで、泣きだす一歩手前のようで、思わず祈里は胸前の服を握る。


「せつなはずっと我慢してた! どんなに辛くても必死で抑えて、もしかしたら死んじゃってたかもしれないのに最後までずっと! せつなは自分の欲望に負けて町の人を襲うなんてしない!」

「そう…せつなは死にかけてたのに誰にも言わなかったってことよね」

「うん。あたしがあの日家に呼んでなかったら、こうして一緒に住むこともせつなの体質もわからないままだった。わからないまま、いつの間にかせつなはいなくなってたかもしれない…」

「そうなのせつな? アンタあのままだったらどうするつもりだったの?」

「そ、れは…症状は抑え込んでたし…」

「何事も限界ってものがあるわ」

「ギリギリまで我慢するつもりだった」

「アタシはギリギリのその先を聞いてるのよ」

「それは…その」

「死んでもいいと、思ったんでしょ」

「……」

「人に迷惑かけるくらいなら、理性が負けるくらいならって」


淡々としていた美希の口調が荒々しくなっていく。そこで祈里はやっと気付いた。美希の気持ちが揺れ動いているその原因が、せつなが吸血鬼だったからじゃないことを。


「ふざっけんじゃないわよっ!!」


ついに限界を突破した美希の怒号に部屋の空気が揺れる。


「アタシはねせつなが吸血鬼だったとかそんなことはどうでもいいのよ! だから何? 今更そんなこと聞いたところで、アタシの中ではせつなはもう仲間だもの! 大体せつながラビリンスの一員だったって知った時の方が衝撃度が高いわよ!! そんな経験してるんだからちょっとやそっとのことじゃアンタを否定する気にも仲間外れにすることもできないわ!! アタシがキレてんのはそれじゃない!」


吸血鬼がそんなことと言ったかこの人は。この世界では化け物の類であるそれをそんなことで切り捨てる美希に、心底驚いた。それと同時に、なら何に怒っているのだろうか。という疑問が湧いてくる。もしかして自分がラブから血液を提供してもらっていることだろうか。


「意味わかんないって顔ねせつな。この際だから教えてあげるわ。アタシはね、結構友達多いのよ」

「は…?」


いきなりの友達多い自慢に、自分でもわかるほど気の抜けた声がでた。はてなマークが頭の上を飛び交う。


「モデルだからいろんな人と出会うし、そこからの人脈で知り合いになる人もいるから、普通の中学生よりは顔が広いの。でもね、どんなにたくさん友達ができたからって、ラブとブッキー以上に一緒にいたいって思える人はいなかった」

「美希たん…」

「美希ちゃん…」


まあ確かにそうだろう。幼いころからずっと一緒だったと聞いている。自分にはそういった存在はいないからよくは分からないけど、美希にとって二人を差し置いて一緒に居たいと思う人ができないことは、想像に難くない。


「ずっと三人でいくんだろうって思ってた。高校生になっても大人になっても三人で、その中に入ってくる人の存在なんて考えてすらなかった。でも、初めて思った。この輪の中に入れたい人がいるって。三人が四人になってもいいって思った。それがせつなだった」

「え…」

「今までこんなこと思ったことなかった。せつなを輪に入れても、それが当たり前みたいにすんなり受け入れられた。せつなはもう、ラブとブッキーと同じくらい、アタシの中では大切な友達なの。突然いなくなっていい存在じゃないの」


音もせず、涙が流れた。気付かないほどそっと落ちる雫に、ようやく自分が泣いていることを理解して、少ししてから自分がなぜ泣いたのか理解した。

嬉しかった。とても。自分の気持ちが追い付かないほどの暖かいものが湧き上がっている。

今まで、こんなに自分が大切だと言ってくれたことはあっただろうか。面と向かって怒りながら強い感情を向けて肯定してくれたことなんてあっただろうか。

咎められると思った。自分の大切な仲間を傷つけるなんて最低だと言われると思ったし、それが向けられるべき感情だと思った。それなのに、あまりにも予想外な言葉たちに戸惑いを隠せなくて、感情が揺さぶられることも放置して、流れる涙を拭うことすらできなかった。


「せつなは普通の女の子だよ」

「ラブ…」

「ちょっと意地っ張りで照れ屋で、でも誰よりも優しい女の子で、あたし達の大切な仲間だよ。これから先何があっても、何を知っても変わらない。美希たんもブッキーもせつなのこと大切だから、こんなに心配してるの。だからもうひとりで悩まないで。あたし達がいる。大丈夫」


歪む視界でライブ会場で見せたあの時のように優しい目でほほ笑むラブ。左右を見れば同じように美希と祈里も笑いかけてくれた。拒絶ではないその表情に、この部屋の温度が上がった気がした。











「ニンニク食べられる?」

「ええ」

「教会が苦手とかは?」

「この前ブッキーとお祈り行ったじゃない」

「聖水が苦手とか?」

「聖水って何…?」

「なら十字架は?」

「教会で見たけど特に何とも…」

「陽の光は?」

「問題ないわね」

「トマトジュース好き?」

「好きだけど…ってそれ関係あるのラブ?」

「なんかつまんないわね」


質問攻めの後、美希が心底つまらなそうに吐いた言葉に、せつなはがくりと肩を落とした。

どうもこちらの世界の吸血鬼は弱点が多いらしい。血液を摂取すること以外普通の人と変わらないせつなには、特有の弱点はなかった。


「身構える必要すらなかったわね。吸血した相手を吸血鬼にするとか眷属にするとかもないし」

「あっ…それは…」

「でしょ? だからせつなもそんなに恐々しなくていいのになーってずっと思ってたんだよね」

「満月には症状が強くなるってなんだか狼男みたいで面白いね」

「ブッキー、それ多分面白い所じゃないと思う」


わいわいと話が盛り上がる中、せつなはこの三人にまだ伝えていないことがある事実を、言おうか言うまいか迷って、結局言わずにいる事にした。それは症状といったものではなく、通例のようなもので、しきたりの様なものだったから、特に害はないと思った。

吸血鬼がそこら中で誰彼構わずに吸血していったら、いくらラビリンスとはいえ統率が取れなくなる。だから、通常は支給されてくるものを摂取するが、自分の意思で誰かに対して初めて吸血をする時は、それは求婚と同じ意味を持つ。そして吸血を受け入れられたら晴れてパートナーになる。もちろんそんなことお構いなしにする人もいるが、そういう意味も持つのだと教えられた。だから慎重になりなさいと。

あの時半分無意識だったとはいえ、初めて自ら人に吸血を行った。そしてそれはラブに受け入れられた。そんなことを思うと、急速に顔が熱くなっていくのがわかった。


「あれ、せつな顔赤くない? もしかして熱ある?」

「な、ななんでもないから! 大丈夫!!」

「それほんとよねせつな?」

「具合悪かったりする? 無理してない?」


疑うような美希の目線も、祈里の心配そうに眉をハの字にしているのも、ラブにおでこに手をあて熱を計られるのも、恥ずかしさで誰の目線も見ることができなかった。

このことは自分の胸の内に仕舞っておこう。永遠に。

そんなことを思いながら、いまだ疑う三人への言い訳を必死に考えてあたふたする。


そうして、満月に輝く空を背に、まだまだ消えない部屋の明かりと共に夜は更けていった。



旧47は、この少し前のお話。