あたしとせつなは、家族4人でのささやかなパーティの後、
せつながあたしにプレゼントしてくれた、アカルン使用券を使って、
クリスマスイブの夜、クローバータウンストリートが一望できる丘へ出かけた。


丘の上から見渡した四つ葉町は、家々にはクリスマスイルミネーションが施され、
冬の冷たいけど澄んだ夜空の下に広がった夜景は、まるで宝石箱のように、いろんな色彩の光が煌めく。
クリスマスイブである今夜は、街全体がおめかししているかのようだ。



それに、クリスマスイブという特別な時間に、いつもは外出できない夜の遅くにこうやって出かけて、
しかも、隣にせつながいる。それだけで、すごく楽しい。
冷気が肌を痛いくらいに突き刺すけど、冬の澄んだ空気が清々しく、寒いけど来て良かったと思った。



来て良かったねと、せつなに同意を求めようと、せつなの方を向くと、
何か思いつめたように、クローバータウンストリートの方を見ている。
なんだか、声をかけるのが憚れるような、そんな雰囲気に、


「月が綺麗・・・です・・よね?あははは・・・」


なんて、意味のないことを呟いてしまったけど、せつなは聞いていなかったみたいだ。
月といえば、この間、せつなに内緒で行った図書館で読んだ竹取物語を思い出す。
竹取物語は、竹取の翁に拾われたかぐや姫が美しく成長して、その噂を聞いた貴公子や帝の求婚を受けるけど、
最後は求婚を断って、結局、元いた月の世界に帰ってしまうというお話。


確か、かぐや姫が月へ帰る時、天人が持ってきた天の羽衣を着ると、翁達のことも忘れてしまうんだよね。
インフィニティになったシフォンがあたし達のことを忘れてしまうように、せつながイースに戻らないとも、限らない。
イースに戻らないとしても、せつなの意思とは関係なく、あたしの前から消えてしまわないとも。
せつなは元々、あたし達の世界の人間とは違って、異世界から来ているのだから、
ずっとあたしと一緒にいるなんて保証は、どこにもない。


今夜の月は、半月。満月の時よりは弱い光だけど、街を見守るよう優しく照らしている。
満月の夜、かぐや姫は月へ昇っていくのだけど、今夜は十五夜じゃない。その事実が嬉しい。



無言で街を眺めているせつなの方を見ると、せつなの肩が震えているのに気づいた。
今は12月の終わり。普段着にコートを羽織っただけだから、確かに寒い。
あたしは腕をそっと、せつなの肩に回した。



その時、気付いた。せつなは寒いから、震えているんじゃない。
あたしにはただ綺麗なだけの光、だけど、せつなには違った意味を持つんだって思った。


都会の何万ドルの夜景とかいうような煌びやかなものとは違って光が少ないけれど、
あの一つ一つの光の下では、あたし達プリキュアが守ってきた人々がいる。
あたし達が守った、もしかしたら消えていたかもしれない、幸せの光。
ラビリンスが、イースが、奪おうとしていた、幸せの光。



「・・・せつなも守ってきたんだよ、この街を。だからこんなに幸せが満ち溢れている・・・」


「それに・・・せつなも消えないよね・・」


何か言った?と言いたげな、せつなの顔を見て、


「ううん、なんでもない。寒くなってきたね。もう帰ろう」
「うん」


そして、あたし達は赤い光に包まれた。





アカルンがあたし達を送った先は、あたしの部屋。
暖房は消して出かけたから、寒いだろうとは覚悟していたけど、外にいるのと変わらない。
自分のコートを脱いで、エアコンのスイッチを入れようとした時、
せつながドアを開けてあたしの部屋から出て行こうとするのが見えた。



せつなが行ってしまう。
せつなは単に、自分の部屋に行ってコートを置いてきて、
あたしの部屋に戻ってくるつもりだったのかもしれない。


だけど今、行かせてはいけないと思った。


ドアに手をかけようとしたせつなの手を強引に引っ張ったので、
腕に抱えていたコートが落ちたけれどそれには構わず、抵抗しないのをいいことに、
せつなの両手を掴んで上にもってきて、ドアの前で万歳をするような形で留め置く。
海外ドラマや何かで、警官が犯人を逮捕する時に、ホールドアップってしているような感じ。


「手を動かすと、お父さんやお母さんが起きてしまうよ・・・」



あたしはずるい。
お父さんやお母さんの名前を出せば、せつなが動けない事を知っているのに、
それでも、わざわざ口にして、せつなを言葉で縛り付けるなんて。


捕まえた犯人の身体検査をするように、丹念に身体に触れていく。
あたしの手は掴んでいたせつなの手を離れ、腕から腋を通り横腹を過ぎて、下半身の方へ。
唇は身体には触れてはいないけど、せつなの肩に顎をのせているから、あたしの息は感じているはず。
くすぐったいだろうけど、せつなは金縛りに遭ったように、微動だにしない。


手が届く一番下、膝の裏側まで到達すると、今度は上の方へと。
指の先に引っ掛かったスカートの裾を捲り上げながら、露わになった肌を手のひら全体で執拗に撫で上げて、
手だけじゃなく、唇を目の前にある首筋に這わせる。時折、触れるだけでなく、吸ったり舐めたりして。
自分の髪質とは違うサラサラで艶があるせつなの髪は大好きだけど、今は纏わりついてくる髪を掻き分けながら。



押し殺した声が聞こえる。快感から出る喘ぎ声ではなく、苦痛の呻きのような・・・
せつなの横顔を見れば、眉間にしわを寄せて何かに堪えているかのように、苦悶の表情を浮かべている。


身体を離してせつなを見ると、スカートは肌蹴けて、下着は辛うじて太腿の所で引っ掛かっている。
セーターは背中の半ばまで捲られて、ブラはホックが外されて肩ひもだけでぶら下がっている状態。
ドアの音を立てないようにと、指が白くなるまでぎゅっと手を握りしめている。
力が入りすぎたため、自分では指が開かせることができないみたいで、
指を一本一本伸ばして、固く握られた拳を開かせると、血が滲み出てきそうな程の深い爪痕。


手のひらに残る三日月型の爪痕を見て、あたしは後悔した。
せつなが感じていなかった訳じゃないし、乱暴にした訳じゃない。
だけど、今まで不幸だったせつなを、決して傷つけてはいけないと思った。





身体はどこまでも白く、闇夜に浮かぶ月のよう。
髪は漆黒の闇に溶け込んで、唇は何もつけていないはずなのに、夜目でも鮮やかな紅。
窓から差し込む仄かな月明かりでも、睫毛の一本一本が見えるほど近い。
時間が止まったような静寂の中で、唯一時の流れを感じることができるのは、あたしやせつなの白い吐息だけ。


キスまであと30センチという所で、じっと見つめていたせいで、
恥ずかしいのかそれとも、拗ねてしまったのかどちらか分からないけど、せつなは顔を背けてしまう。


横を向いたせつなの唇の端に、そっと口付ける。触れるだけのキス。
唇が離れる直前に、舌を伸ばして口角を軽く舐める。次に続くキスを予感させるように。
できればこのままずっと見ていたかったけれど、
上腕だけで上体を支えている今の不安定な状態では辛いので、
少しずつせつなに体を預けながら、素肌と素肌が触れ合う場所を徐々に広げていく。


お互いの体温を肌で感じ、素肌の滑らかな感触を味わう。
涙が出そうになるくらい安心感があるのに、一方では、ダンスをしている時以上に、胸がどきどきする。
せつなと出逢って、初めて味わった感覚。


抱き合うというのなら、美希たんやブッキーとも、嬉しい事があった時とかに、
抱き合ったことなんて何度もある。尤も、その時は、お互い裸ではなかった訳だけど。
美希たんやブッキーだったら、こんな風には絶対に感じない、と断言できると思う。
美希たんとブッキーは大切で、大好きなあたしの友達だけど、
多分、せつなに対する好きは、美希たん達とは違う種類の、好き。



さっきの続き、唇の端から再開して、細かなキスを重ねて、真ん中に近づけていく。
ちょうど、お互いの唇がぴったり合わさる所に到達した所で舌を伸ばして、
上唇と下唇の合わせ目をなぞっていくと、隙間が少し開いて、あたしを受け入れてくれる。
あたしとせつなの吐息が混じり合い、あたし達の間からどちらの息か分からない白い靄が立ち昇る。


あたしの舌はせつなの舌と触れ合い、逃げるようなせつなの舌を追いかけ、奥へ、もっと奥へ。
舌が触れ合う度、角砂糖が熱さで溶けて甘みが増していくみたいに、甘さの密度が濃くなる。
せつなもあたしと同じように、甘く感じているのだろうか。


唇を一旦離してせつなを見ると、頬が上気していて瞳は切なげで、
なんだか、答えの一つを見つけたような気がして、嬉しくなった。



キスは継続して、手を下へ滑らせる。二つの柔らかな感触と、三つの固い感触と。
固い方の真ん中、クローバーのペンダントはあたしとせつなの間で熱くなっている。
二つの柔らかな膨らみを手のひらに収め、頂きを抓んで優しく擦る。
二つの固い方を指で弾くと、あたしの指の動きに合わせて、せつなの呼吸が乱れる。


あたしとせつなの身長はあまり変わらない。
なのに、あたしより胸は大きいよね。しかも、以前より大きくなっている気がする。
身長は関係ないのかな・・・美希たんは身長が高いけど・・・・だし、ブッキーは・・・。
胸の大きい人は運動をする時に邪魔だって聞いたことがあるし、
ダンスをする上では、小さい方がいいのかもしれないけれど。


このような状況下で美希たんやブッキーを思い出すのは、
美希たん達にも、せつなにも悪い気がして、目の前のことに集中する。



手を胸から、更に下の方へと。
せつなの太腿を持ちあげ、開いたせつなの身体の間に、あたしは身を埋める。
上体をせつなの身体に密着させ、唇をせつなの唇に寄せていく。
せつなの身体と完全に重なったところで、あたしは身体を上下に動かす。


始めはゆっくり、だんだんと速く。
動きが激しくなってくると、唇は的を外れ、せつなの唇を捉える事が難しくなるけど、
できるだけ長く、触れ合うように。
せつなの身体の震えを全身で受け止め、絶頂を迎えたせつなを全力で抱きしめた。


再び静寂の時が来て、あたしは猛烈な睡魔に襲われた。
薄れていく意識の中、せつながあたしの手を握るのを感じた。




次に気がついた時、時計を見ると、お母さん達が起きてくるには少し早い時間。
まだ、日の出前の時間なのに、外は明るい。
カーテンを開くと、家々の屋根や道路には雪が積もっている。


「ホワイトクリスマスだ」


「ホワイトクリスマス?」
「うん。雪が降ったクリスマスは、ホワイトクリスマスって言うんだ」


「そういえば、さ、昨日はあたしが行きたい所に行ったでしょ」


うんうんというように、何度もうなづくせつなに、


「せつなはどこに行きたい?今日は、せつなの行きたい所に行こう」


正直に言って、ラブのそばならどこでもいい、という答えを期待して聞いたんだけど。



「美希から聞いた可愛いアクセがある雑貨屋さんと、ブッキーに勧められた本を借りに図書館に行きたいし、
パン屋さんの新作のパン、美味しかったからまた食べたいし、駄菓子屋さんに行って、それから・・・・」


「ストップ、ストップ」


あたしが止めなきゃ、延々続きそうな勢い。



「それじゃあ、最初は、パン屋さんだね」


「パン屋さん、こんな早くにしているの?」
「せつなは知らない?朝一番の焼き立てのパンが美味しいんだよ」


ううん知らないという風に、勢いよく首を横に振るせつなに、


「それでは、今日は私が、四つ葉町をご案内いたしましょう」


映画なんかで王子様がするみたいに、足を交差して右手を上から斜め下に振りおろして、
そのまま深々とお辞儀をすると、せつなの顔に笑みがこぼれた。



せつなの笑顔が見れて、本当に良かった。



「じゃあ、全部廻るには早く行かなきゃ。さあ早く着替えよう」
「うん」



クリスマスが初めてのせつなに、お父さんやお母さんがプレゼントを用意してくれているだろう。
お父さんやお母さんのプレゼントも、すごく嬉しい。
だけど、大好きな人の笑顔が、あたしにとって、一番嬉しいクリスマスプレゼント。








~おまけ ドアの前からベッドの間に~


覆いかぶさるように、私の背中に密着していたラブの身体が離れていく。
首筋から頬に当たっていた唇の熱さも、全身を覆っていた手の温もりも、消えていく。



ラブの身体が離れたので、体勢を整えようとするけど、
少しでも動けば、バランスを崩して倒れそうで、動けない。
倒れるのはいいけど、大きな音が出てお母さん達を起こしてしまうのは、とても怖い。


動けない私をラブが見かねて、私の身体を回転させてドアの反対側に向かせて、
握りしめている私の拳を、指一本一本丁寧に、開かせてくれる。



「せつな、ごめん」


余りにも意外なラブの言葉に、私は驚く。



「ラブが、私に謝る事なんて、あるの?」


「だって、あたし、せつなを傷つけた!」


「ラブが・・・私を・・・?」



ラブの目の前で自分から脱ぐのは恥ずかしいけれど、今夜の月の光は弱い。
腕や足に纏わりつく下着や服を脱ぎ去り、一糸まとわぬ姿になって、ラブの前に立つ。



「ラブ、見て。私の身体のどこか、傷ついている?」


死を覚悟していたキュアピーチとの決戦の時でさえ、
あなたの拳が私の身体を傷つけることはなかった。
あなたの手の温もりが私の凍てついた心を溶かしてくれた事、
そして、その事が私にとって、どんなに嬉しい事であったのかを、あなたは知らない。



「でも・・・あたし・・・」


私の手を取り手のひらを開かせる。そこにできた爪痕。
こんなの、傷じゃない。痛くなんて全然ない。


私の手に口付け、爪痕の形をラブが舌でなぞっていく。
動物が怪我をした時、傷口を舐めて癒すのだと、ブッキーから聞いたことがある。



自分の手に他人の身体が触れる機会は多い。
特にダンスをしている時なんかは、倒れた人を起こしたり自分が起こされたりして、
ラブだけじゃなく、美希達とも触れ合うことがある。



だけど、これは違う。
最初はくすぐったいだけ、でもだんだん、身体の奥が熱くなってきて。
身体を捩って私の手からラブの唇を離し、肩を叩いて、屈んでいたラブの身体を立たせる。


向い合い、目の前にあるラブの両頬を両手で押さえて、私の唇をラブの唇に重ねる。
戸惑っているからか強張っている身体を抱きしめ、ラブの首に私の腕を巻き付ける。
ラブの身体の緊張が緩んで、私を受け入れてくれたのを感じて、嬉しくなる。


キスをしたまま少しずつ移動して、ベッドの端までラブを導き、
ラブの身体を引き寄せながら、背中から倒れていくと、ラブが首に腕を回して支えてくれる。



お互いの息が顔にかかる程、もしかしたら、鼓動が聞こえそうな程、ラブに近い。
昔の私だったら、こんな近くに他人を存在させることを許しただろうか。


でも今は、もっともっとラブに近づきたい。
できれば、ラブと私が、一つになってしまいたい。そうしたら、ラブと離れることはない。



私の唇の近く、ラブの耳元に熱い吐息とともに囁く。
もっと一つに、溶けあうために。



「ねえ、ラブ・・・私一人だけ、裸なの・・・・恥ずかしい」
最終更新:2013年02月10日 20:50