『灼熱』/Mitchell&Carroll




真夏だというのに、足の裏からは厳かな冷たさが伝わってくる。
ここは、明堂院流古武道の道場。
大勢の先輩と後輩が見守る中、その二人は既に精神統一を始めている。
誰かの固唾を呑む音すら聞こえてくる、そんな静寂の中、氷川流師範が口を開く。
「では、明堂院流師範、そろそろ始めますかな?」
「うむ。これより、明堂院いつき・氷川いおなの二人は、タンバリンを取り入れた演舞をし、
 より“可愛いだけじゃなくてカッコイイ”方を勝ちとする。なお、公平をす為、二人にはこちらで用意した
 タンバリンを使ってもらう。では、互いに礼!」
いつきといおなはキビキビとした動作で礼をすると、すかさず変身を始めた。

向日葵の花が咲き乱れる中、いつきの髪はロングヘアーに変化する。
妖精の「プリキュアの種、いくでしゅ~!」という掛け声に、いつきも続く。
「プリキュア、オープン・マイ・ハート!」
種をパフュームにセットし、体の要所要所に振りかけると、その身は瞬く間に鮮やかな衣装に包まれていく。
颯爽と靡(なび)かせた髪は金色(こんじき)に輝き、花をモチーフとした可愛らしい髪飾りで括る。
さらに耳飾りも装着し、華麗な上段蹴りを放ちながら、変身は完了する。
「陽(ひ)の光浴びる一輪の花!キュアサンシャイン!!」

一方、いおなは特製のパレットを開く。
「プリキュア、きらりん☆スター・シンフォニー!」
星をかたどった指輪を嵌(は)め、パレットの鍵盤を弾くと、音階に合わせて指輪は輝く。
白い巻きタオルに身を包み、眩(まばゆ)い光を放ちながら少女の姿は徐々に変化してゆく。
巻きタオルを脱ぎ去ると、スカートをふわりと翻(ひるがえ)しながら、凛々しいその姿を現した。
「夜空にきらめく希望の星!キュアフォーチュン!!」

審判を務める明堂院流師範が、高らかに試合開始を告げる。
「では、先手・キュアサンシャイン!演舞、始め!!」

手渡されたタンバリンを握ると、可憐な演舞が始まった。
夏の太陽の下にそよぐ風を思わせる、爽やかなジングルの音。
きらめく汗が少女の健康的な姿を映し出す。
ときにお尻でタンバリンを鳴らし、可愛らしさとカッコよさをアピールする。
青い春の香りを漂わせながら、演舞は終了した。

「続いて、後手・キュアフォーチュン!演舞、始め!!」

どこか妖しさすら感じさせる、トラディショナルな雰囲気が漂い始める。
キュアサンシャインのそれとは趣(おもむき)を異にするその演舞に、場の空気はがらりと変わり、
やがて皆をその独特な世界に引き込み始めた。
だが、大勢の者がその演舞に見惚れる中、一人、不安な眼差しで見つめる者がいた。
いおなの姉・まりあである。
「......動きが硬いわ。気負っている」
その姉の悪い予感が的中する。
いつきへの対抗心からか、いおなの心に焦りが生じていたのだ。
「(もっと、もっとスナップをきかせて、ジングルの音を響かせなきゃ......!)」
やがて、力(りき)んだジングルの音が響き始め、間も無くいおなの体に異変が生じる。
「うっ、手首が......!?」

――タンバリンが、硬い床に落ちる。そして螺旋状に転がり、なかなか静まろうとしないその切ない音が、道場に響き渡る。
ようやく無音となった後、辺りからは溜め息が漏れ、中には涙ぐんでいる者さえいる。
一人の厳しい視線がキュアフォーチュンに突き刺さった。
「お祖父様......」
「未熟者めが。技術を見せびらかそうとするから、そうなるのだ。自分の体を壊すようでは駄目だ」
いおなは堪え切れずに大粒の涙をこぼした。それにつられて、声をあげて泣き出す者もいた。
混沌とした空気の中、審判は告げる。

「勝者、キュアサンシャイン!!」

いおなは涙を拭いながら、いつきと握手を交わした。その手にいつきが込めた想いをいおなが理解するのは、まだ当分先のことである。
その後、皆が二人に駆け寄り、賞賛や励ましの声が飛び交った。
しばらくして氷川流師範が切り出す。
「皆様方、今日はわざわざ集まっていただき、本当に感謝している。しかし、うちの娘が見苦しいものをお見せしてしまった。
 そこで、お詫びと言ってはなんだが、私の演舞を見て下さるかな?」
そう言って先程のタンバリンを拾い上げ、シャラシャラと音を鳴らしながら高く掲げた。
「破(は)っ!!」
長年の修行で鍛え上げられた肉体と精神が、空気を切り裂く。その空間に、燻し銀を思わせるジングルの音が敷き詰められていく。
だが、間も無く氷川流師範の体に異変が生じる。
「うっ、指が......!?」
先程と全く同じようにタンバリンを床に落とし、氷川流師範は指を押さえながらその場に蹲(うずくま)った。

「あのねー、その穴は指を通す穴じゃないんだよ」
「(のぞみ!シーッ!!)←りんちゃん」

「いおなちゃん、手首は大丈夫?」
「ええ。一瞬、電気が走ったけれど、今はもう大丈夫よ」

「氷川流師範、大丈夫ですか......!?」
「む......骨に達しているようだ......」



 完!!