Our New Dressup Key




「エコー!」
 禍々しくも燃え上がる火球は、光のカーテンの中へ潜り込み、まるで包み紙の中のキャンディのように見えた。だがそのキャンディは、光のラッピングを燃やしていく。ミントの緑が消え、ヒマワリの花びらが散り、金色の壁が砕けた。
「エコー!!」
 キュアフローラが空を蹴った。キュアマーメイドが続き、キュアトゥウィンクルが追いかける。
「!」
「みんな!」
 地上のプリキュアたちと妖精たちは言葉を失った。
「え」
「消えた」
 そこには何もなかった。
 火球も、光のカーテンも。
「どういうこと?!」
「フローラ!」
「マーメイド!」
「トゥウィンクル!」
「エコー!!」
「そんな」
「…。
 あれ。あれ見て!」
 空中の小さな点が大きくなってくる。キュアフローラだった。キュアマーメイドとキュアトゥウィンクルと一緒に、キュアエコーの体を支えている。
「大丈夫なの?」
 言うまでもない、キュアフローラの安堵したような笑顔が、キュアエコーが無事であることを示している。
「ハニー、お願い!」
 キュアラブリーがそれを迎えようとジャンプした。キュアハニーのバトンは優しい光でキュアエコーを癒していく。
「エコー。
 エコー!」
「あゆみちゃん!!」
 グレルとエンエンが駆けだす。
 キュアフローラたちはゆっくりとテラスに着地した。キュアエコーの体を横たえる。
「エコー、大丈夫?」
「あゆみ!」
「うん…」
「あゆみちゃん…あゆみちゃん…あゆみちゃん!」
「すげぇよ、やっぱ、俺たちのキュアエコーは最高だぜ!」
 エンエンが泣き出し、グレルも泣き顔のまま手を天に突き上げた。
「フローラさん、光は、無事ですか?」
「光?」
 キュアフローラが、キュアエコーの言ったことを理解できず、近づこうとしたとき、足元でかすかな音がした。

「あれ」
 それを拾い上げる。
「ドレスアップキー?」
 キュアフローラたちが変身の時に使うドレスアップキーによく似ている。
 振り向くと、キュアマーメイドとキュアトゥウィンクルも同じようなキーを手にしていた。
「いつの間に」
「エコーからのプレゼント?」
「それは、ドラゴンの光です」
「ドラゴンの…光?!」
 キュアフローラが意味を理解できずに叫ぶ。それはほかのプリキュアも同じようだった。
「わかった」
 エンエンだった。涙も拭かずに話し始める。
「きっと、ドラゴンの火球に込められていた絶望と恐れがそれに変わったんだ」
「…。
 そうか、エコーだから!」
 グレルがうれしそうに飛び上がった。
「どういうこと?」
 キュアトゥウィンクルが覗き込む。
「だから、エコーだからだよ」
「わかんないよ」
「鈍い奴だな!」
「なんですって?!」
「こういうことですか。
 エコー、つまり、山びこは、私たちの声が山肌に跳ねかえってきたもの。
 ドラゴンの火球がハートフル・エコー コルティーナで跳ね返されてできたのが、このドレスアップキーだ、と」
「あ、絶望が希望に、ってこと?」
 キュアマーメイドの説明に、キュアトゥウィンクルが答えた。
「そして、恐れが思いやりに、怒りが優しさに変わったんだ」
 キュアフローラは自分の手の中のドレスアップキーを見つめた。
「みなさん」
 キュアエコーはグレルとエンエンの力を借りながら立ち上がった。
「ドラゴンは、自分の中にはまだ、ドラゴン自身が制御できない邪悪な部分が残っている、と言っていました。恐れもまだ完全には消えていないはず。
 それを浄化してあげることはできませんか」
 プリキュアたちは海の向こうのドラゴンを見やった。確かに、さっきと同じように、まだ小さくはあるが、胸の部分に赤い炎が透けて見えた。放っておけば、さっきのような大きな火球になる。今度こそ防ぎきれないかもしれない。
「やろう」
 キュアフローラが言った。
「守り神様だって、こんなことしたくないんだもん」
「王陛下も、ハルモニアにはなくてなならない存在だとおっしゃっていたわ」
「それに、このドレスアップキーはドラゴンの中から出てきたようなもんなんでしょ。返さなきゃね」
「うん!」
「フローラ」
 キュアブラックの声に、みなが道を開けた。
「あたしたちの力も使って」
 腕を伸ばすキュアブラック。その手から滲み出した光がキュアフローラの周りをめぐった。
 シャイニールミナス、キュアブルーム、キュアイーグレットが続く。すべてのプリキュアの光が城のテラスを満たし、ドレスアップキーに吸い込まれていく。
「俺たちの力も使っていいぜ。なぁみんな?」
「使うルモ!」
 そしてすべての妖精たちの光もそれに加わる。キュアフローラは、ドレスアップキーから伝わってくるぬくもりに目を閉じた。
「あたたかい…」
「フローラ」
「行こう」
「うん。
 エクス-チェンジ」
「モード・エレガント!」
 プリキュア、そして妖精たちは伸ばした手をドラゴンに向けた。
(お願い。
 歌とダンスが大好きだったあなたに戻って)
(みんな待ってるの)
(そして一緒に歌おう!)
「プリキュア サンテーヌ・ルミエール!!」
 光はテラスの上で破裂したかと思うと、ドラゴンの頭上で凝集した。雨のように光の粒が降り注ぐ。ドラゴンは突然のことに驚いたようだったが、やがて手の鉤爪をおさめ、太い尻尾を横たえ、両手をおろした。瞳に光が戻り、胸から透けて見えた炎も小さくなっていく。
 そして、その姿自体も、まるで空に青い絵の具を塗ったように消えていった。
「ごきげんよう…」
 代わりに、ハルモニアの町に花びらが舞った。白、ピンク、黄色、青、紫。
「きれい」
 キュアミューズが言った。
「ドラゴンの中にも、ちゃんと素敵なメロディがあるんだよ」
 キュアメロディの言葉にキュアリズムが頷く。
 その花びらが繋ぎ合わせたかのように、城や家、橋や道路が元に戻っていく。花びらが消える頃には、さっきまでのハルモニアが姿を現していた。
「やった…」
「後は」
「ギク!」
「あんたたちの始末よね」
 ミルキィローズが見下ろす。すっかり腰を抜かしていたオドレンとウタエンは後ろずさった。何かにぶつかる。キュアムーンライトとキュアフォーチュンだった。
「あ…きれいな、おみ足で」
「ありがとう」
「王様のご機嫌もうかがった方がいいかもしれないわね」
「はは…。
 ごめんなさいぃ!」

「エコー」
 エンエンが指差した。
「花びらがのってるよ」
「うん、きれいだよね」
「その肩のだよ」
 グレルがにやっと笑った。
 肩に手をやるエコー。広げてみると、カラフルな中に金色の花びらが混じっていた。
「こら、フーちゃん」
〈ふふふ〉
「疲れてるから休んでると思ってたのに」
〈なんだか楽しそうだから起きた〉
 キュアエコーが笑う。
 グレルとエンエンも嬉しそうに飛び跳ねた。
〈ドラゴンの声、聞こえたか?〉
「うん」
 ありがとう。
 ドラゴンはそう言った。
 本当に、ドラゴンの中の「獣」の部分が消えたのかどうかはわからない。
 だが、ハルモニアの人々は今度こそ「春のカーニバル」を大事に守り続けるだろうし、ドラゴンがそれに対する感謝を忘れることもないだろう。もう心配はない。
〈フーちゃんが時々遊んであげることにする〉
「うん」
「エコー、歌おうぜ!」
「みんなで踊ろう!」
〈フーちゃんも歌う!〉
「え、でも、まだ練習してないのに」
 グレルとエンエンに手を引かれていくエコー。その後を金色の花びらが追いかけていく。
「パフも歌うパフ」
「お兄ちゃんを置いていくなロム!」
 城で。
 町で。
 家の中で。家の外で。
 ドラゴンが守る大地で。
 春のカーニバルがまた始まる。