CureEcho in Princess Form




〈生きていたのか〉
「お願いです。聞いてください」
〈聞かん〉
「ハルモニアの人たちは、あなたを裏切るつもりはなかったんです」
〈だが、春のカーニバルは穢された〉
「それは泥棒が」
〈ハルモニアはその悪事がなされることを許したのであろう〉
「…」
〈過ちは償われねばならん〉
「私は、あなたの」
〈気持ちがわかるとでも言うのか〉
 キュアエコーはまた口をつぐんだ。
 フーちゃんとつながった瞬間に流れ込んできたドラゴンの意思。それは、深い悲しみと絶望で満たされていた。

 腕をほんの少し振っただけでも家が倒れ、尻尾のうねりだけで町がひとつ破壊されてしまう。ドラゴンは自分の居場所を求めていた。だが、求める行為そのものが人々の暮らしを脅かすのだ。ドラゴンは、矢を射かけられ、体を焼かれた。仲間もいない。それどころか、自分がいつどこで生まれ、なぜそのような姿をしているのかもわからない。心がささくれだっていくのは当然のことだった。やがてドラゴンは、人々から「怪物」「化け物」と呼ばれるようになった。
 そしてさまよい続けたある日、ハルモニアの外れにたどり着いた。音楽があふれ、人々がダンスを楽しむ、常にどこかで祭が行われている喜びの国、ハルモニア。そのメロディを耳にし、リズムを感じたドラゴンは、自分でも知らない内に祭が行われている広場に近づいて行った。
 人々が恐慌状態になったのは言うまでもない。母親は子供を守るために安全な場所を求めて走り、夫は妻を守るために武器を手に取った。
 ドラゴンは言った。
〈歌は終わってしまったのか〉
「なんだと?」
 国王は自分の耳を疑った。いや、その声は耳から聞こえたのではなく、心に直接響いたのだから、間違っているはずはない。しかし、怪物が音楽を求めているなど誰が信じられるだろう。
 信じられないでいるのはドラゴンも同じだった。音楽がこれほど自分の心を明るくするものだとは。ダンスがこれほど気持ちを浮き立たせてくれるものだとは。もっと聞きたい。もっと見たい。歌ってくれ。踊ってくれ!
 祭の中心である祭壇にいた国王は進み出た。
「歌が好きか」
〈あぁ〉
「ダンスが好きか」
〈あぁ〉
「しかし、お前が歌えば嵐が起こる。お前が踊れば大地が裂ける」
〈お前たちの美しい歌と、朗らかなメロディを聞かせてくれ。飛びまわるお前たちの笑顔を見せてくれ。俺はそれで十分だ〉
 国王は、彼の背中で武器を取り怯えている人々を見た。
〈俺はもとより化け物。詩を紡ぎだす舌も、軽やかに跳ねる爪先も持ってはおらん。
 だが、歌はいい。ダンスは素晴らしい。それがあれば、俺は自分が化け物であることを一時だけでも忘れることができる。
 頼む。祭を続けてくれ。その間、動くなと言えば動かぬ、石になれというのなら石にもなる。
 祭の間、俺がここにいるのを許してくれ〉
 王はドラゴンを見ていた目を怯えている人々に移した。そして、もう一度、ドラゴンを見る。
「ドラゴンよ。
 この国にとどまる気はないか」
 人々は抗議の声を上げた。
「ハルモニアにはお前の好きな歌とダンスがある。
 しかし、この喜びに満ちた国を脅かすものも少なくない」
〈俺に、この国の盾となれと言っているのか〉
「難しいことではあるまい。その巨体を見せれば、大抵の者は怯えて引き下がろう」
〈この醜い体が人間の役に立つのなら。
 この化け物が、歌を聴く場所を用意してくれるのなら〉
「ドラゴンよ」
 国王は周りを見渡した。むしろ、人々に向かって話しているようだった。
「自分を化け物と言うが、お前が本当に化け物だとは私には思えん。
 化け物が、歌が止まったと言って泣いたりするものか」
〈ナイタリ…それは俺の知らない言葉だ〉
 ドラゴンは自分の目から涙が流れていることに気づいていなかったのだった。それは、ハルモニアの人々の歌とダンスが呼び覚ました、ドラゴンの中の傷を洗い流すための涙だった。
 国王が笑う。人々もそれに気づいて武器を置いた。
「さっきも言った。この国には歌とダンスがあふれている。
 だが、毎年春に、お前のためにカーニバルを開こう。人々がただひたすら歌い、踊り、笑顔となるカーニバルだ。
 あるいは、遠来の客が一緒に声を揃えることもあろう。新しい踊りをもたらしてくれることもあろう。
 お前のためのカーニバルだ。それと引き換えに、このハルモニアを守ってくれ」
〈王よ。
 その祭を千年も繰り返せば、お前たちの歌と踊りで俺が浄められ、俺が化け物でなくなる日も来るのだろうか〉
「わからんやつだな。
 お前は化け物ではない。
 ハルモニアの守り神になるのだ」

 キュアエコーは唇をかんだ。
 そのすべてが否定された。ドラゴンはそう思っているのだ。
 また再び居場所を失い、人々の憎しみの対象となる日が来る、それを恐れているのだ。
 そう。ドラゴンは、怒っているのではない。悲しいのだ。絶望しているのだ。
(どうすれば…!)
 ドラゴンは口を開けた。その奥に真っ赤な炎が見える。
〈あゆみ!〉
 大きな火の玉がキュアエコーの体を包んだかに見えたが、フーちゃんの金色の光がその直撃をかろうじて防いでいた。しかし、自らキュアデコルになるために力を使ったフーちゃんはまだ十分に回復してはいない。その光はか弱いものだった。
〈あゆみをいじめるやつは許さない!〉
「フーちゃん、無理しないで。私、大丈夫だから」
〈あゆみ…〉
「大、丈夫…」