ラブは最初から、私にとって「特別な存在」だった。



ラビリンスにいたころの私は、メビウス様の命令に従うこと、それが全てだった。


ラビリンスの幹部であった私は、リンクルンを奪うため、
プリキュアに、ラブに近づき、偶然を装い何度かラブに接触した。



ボーリング場では、オウムのナケワメーケがラブ達の本心を露呈させた。
他の人間達は本音と建前が違っていたのに、ラブだけは発する言葉と本心が同じだった。
警戒心のかけらもないラブを、なんて馬鹿な子。
そう思う反面、私は心の底では、疑うことの知らないラブを羨ましく思っていた。



プリキュアとの戦闘が激しさを増し、ナキサケーベのカードを使って疲弊している私に、サウラーが言った。
「我々の全てはメビウス様によって決められている。それ以上のことを望むのか」と。
その時は分からなかった。
だけどサウラーの言うとおり、私はそれ以上を望んでいたのだ。



私は単にメビウス様に、私だけを見て欲しかっただけなのかもしれない。
いや、それはメビウス様でなくてもよかったのかもしれない。
誰かが私だけを見ていてくれたなら、それでよかったのかもしれない。



ラビリンスを捨てた私は、メビウス様の替わりとして、ラブを見ていた。





私が桃園家に暮らすようになった、ある夜の深夜。



私は突然、眠りから覚めた。
私の手は何かを求めて虚空をつかんだまま。
口からは荒い息が、暗い部屋にこだまする。



また悪夢を見たんだ、と瞬時に状況を判断する。



今回の夢は、ラブが私から離れていく夢。


私は必死にラブのことを呼ぶが、知らない人であるかのように無視し、
ラブが美希とブッキーと一緒に向こうへ行ってしまう、そんな夢。



私は胎児のように体を丸め、再び眠りが訪れるのを待った。
目を固く瞑るが、眠りは訪れてくれない。
でも、これでいいのかもしれない。
眠ったところで悪夢にうなされるなら、起きていたほうがマシ。
時計を見れば、もうかなり夜の遅い時間。



隣室のラブはもうとっくに眠ってしまっているだろう。
そう思い、私はベランダに出てみた。



中天に浮かぶ月を見上げる。



月は冴え冴えと輝き、
私の悪夢の欠片を洗い流してくれるような、そんな気持ちになる。


このままずっと、月を眺めていたかったが、
さっきうなされた時に寝汗でもかいたのか、肌寒さを感じはじめる。
体の震えは、先程の悪夢を思い起こさせ、私は再び眠るのが苦痛に感じた。



でももう部屋に戻らなくては。
後ろを振り返ると、目の端にラブの部屋が見えた。






ラブの部屋に入っていくと、奥のベッドにラブが寝ているのが見える。
しばらく見ていても、ラブは寝返り一つしない。



もしかして死んでいる?
ありえない想像だけど、私は不安になって、ベッドの近くまで近づく。
もうしばらく見ても、ラブは全く動かない。



全てが止まった時間の中で、私だけがこの世界から隔絶されているような、
そんな不安に駆られる。
ラブの存在を確かめたくて、ラブの口元に手をかざしてみる



私の手にラブのあたたかい息がかかった。



よかった。生きてた。



あたりまえことだけど、私は安堵し、
それと同時に、深夜に他人の部屋に入ったことに対する申し訳なさを覚える。



目から安堵による涙が、口からはラブへの謝罪の言葉が漏れる。
「ごめん、ラブ、ごめん。・・・ごめん」



突然、私の頬を流れる涙をぬぐう手を感じる。


ラブが起きていた?


「ラブ、ごめん。・・・本当にごめんなさい」



泣き続ける私に、ラブが布団の中に入るよう促してくる。
ラブの布団の中に入るが、顔を見られたくなくて、私はラブに背中を向ける。



「せつなが何も言いたくないなら、あたしは聞かないよ。
でもこうしたら、安心するよね」
背中からまるでラブに包まれるように、抱き寄せられた。





背中にラブの体温を感じ、私の首筋にラブの息がかかる。
「ふふっ、ラブ、くすぐったい」
私はくすぐったくなって身を捩る。
いたずらしているのか、ラブが私の首に息を吹きかけてくる。
首筋からの刺激に、体中がだんだん熱くなり、私の息が熱を帯びるのが分かる。



ラブの手が私の全身に触れてくる。
けれど、私はその手を拒むことができない。


ラブの手や唇が触れたところが熱い。
病気のときに発熱したように、私の意識は朦朧としてくる。
だけど、病気のときと違って、その熱を歓迎している自分に気づく。



突然、手を止めたラブを不思議に思い、私は閉じていた目をあけた。
ラブは心配そうに私を見ている。
ためらっているのかな。誰かにはじめての時は痛いって聞いたし。



「えっと、せつな」
「ラブ、この後は痛いのよね。私なら大丈夫」



その言葉をきっかけに、ラブは私の中に指を入れてくる。
痛い・・。まるで肉を切り裂かれていくような感触に、私の全身は強張る。
一旦塞がった傷口が、再び開かれていくようなそんな痛み。



「せつな、力を抜いて」
ラブの声が聞こえるが、力を抜こうとしても全く力が抜けない。
むしろ痛みによって、私の体中が委縮していく。
体が動かない私を見て、ラブは自分の手や唇を私の体に這わせていく。
ラブの手や唇によって、再び熱が生まれ、頭でなにも考えられなくなる。
指が全て入ったのか、ラブの動きが止まった。



「ゴメン、せつな、ゴメン」



ラブの泣きそうな声。
でも、その言葉、少し前に聞いたような・・・。
「それさっきの私のセリフじゃない」


こんなときだけど、可笑しくなって、二人の口から笑いが漏れる。
笑った瞬間、私の緊張が解け、だんだん睡魔が襲ってくる。



「せつな・・・」
ラブの声が遠くから聞こえる。



私はようやく悪夢から解放されたのだった。






SABI5
最終更新:2013年02月10日 17:07