夜が更にふけた、桃園家のラブの部屋。
隣では、ラブは気を失うように眠ってしまった。
私はそのまま眠ることもできず、かといって、自分の部屋に戻るのが惜しい気がして、窓から見える月を眺めていた。
私は、私とラブの関係が、このままではいけないと思っていた。
私達は同性どうし、世界的な流れとして、同性のカップルも認められはじめているし、
もしかしたら、将来法律が変わって、同性でも結婚できたりするのかもしれない。
けれど、永遠に変わらない問題。
自分達の間に子供はできないのだ。どう考えても、未来のない関係。
私には、おじさまとおばさまに大きな恩がある。
身寄りのない私を引き取ってくれ、学校へ行かせてくれた。
そしてなにより、家族のいなかった私に家族のぬくもりと、幸せを教えてくれた。
その恩に報いるためだったら、私はなんでもしたい。
必要なら死ぬことだって。
おじさま達が私達の関係を認めてくれたとしても、
私達の関係が未来も続くものであったなら、許してはくれないだろう。
私はどうしたらいい?どうすればいい?
どうして今までのように、友人で居られなかったの。
私は月の中に答えを見出したい、そう思って、ずっと月を眺めていた。
「かぐや姫みたい」
眠っているとばかり思っていたラブが身を起こし、私を見ていた。
「かぐや姫って、何?」
「えっと確か、月から来たかぐや姫が、帝とかの求婚を断って、月に帰る話」
違う世界から来た異邦人?本当に私みたい。
「そう。だったら私はかぐや姫かもしれない。
違う世界から来て、違う世界へ帰っていく・・・」
そう呟く私の姿は、ラブには弱々しく思えたのか、
駆け寄ってきて私の背中を抱きしめてくる。
「せつな、あたしはせつなのそばにずーっといるよ。
これからも一緒にたくさんの幸せゲットだよ!!」
どうしてラブはいつも私の欲しい言葉をくれるのだろう。
涙が溢れそうになるのを、なんとか、瞼に押しとどめ、
「・・・精一杯、頑張るわ」
そう言うのが、精一杯だった。
次の日の夜、私とラブは夕食の後片付けをしていた。
私が洗った食器を、隣のラブが布巾で拭いていく。
「せつな、今夜あたしの部屋へ来る?」
とこっそり、おばさま達に聞こえないように聞いてきた。
「どして?」
私はわざとおばさま達に聞こえるように言う。口喧嘩しているように見えたのか、
何事?といった風におじさまもおばさまもこちらを見る。
ラブは悲しげな笑顔を浮かべ、何でもないといった風におばさま達に向かって首を振り、私のそばから離れていった。
これでいいんだ、と私は自分に言い聞かせた。
夜が更けて、私は一人ベランダに出ていた。
後ろを振り返ると、ラブの部屋が見える。
真っ暗になっていて、物音ひとつしない。
私より早く寝てしまう彼女のことだから、もう寝てしまっているだろう。
本来なら、私だって眠っているような夜更け。
私は、ラブが寝てしまった頃を見計らって、ベランダに出た。
中天に浮かぶ月を見上げる。
ラブが昨夜言ったように、私がかぐや姫だったら、月の使者よ来て。
そう思い月を眺めるが、かぐや姫でない私には使者など来るはずもなく。
第一、私には帰るところもないじゃない、と自嘲したくなる。
もう眠ろう。
どうしても見えない答えに、寝ることのほうが建設的に思えて、私は部屋へ戻った。
「せつな・・・せつな」
私を呼ぶ声がする?
目を開けると、ラブが私のベットに腰かけ、私の顔を覗き込んでいた。
しまった。さっき、考え事をしていて、ベランダ側の鍵を閉めなかったことに気づく。
いつもだったら、ドアもベランダ側の扉も鍵を閉めるのに。
そういう私の思考を読み取ったのかどうか、
ラブは私の大好きな笑顔で、私を見つめ続ける。
私はその笑顔に、胸が締め付けられ、言葉にすることができない。
無言でいる私に、
「せつな、せつなが悩んでること分かってるんだ。
お父さんとお母さんのことでしょ」
とラブが言う。
驚く私に、ホラやっぱりといった感じで笑いかけてくる。
「お父さんとお母さんのことは気にしないでとは言えないけど、
今はこのままでいちゃダメかな」
「あたしは今せつなと一緒に居たい。
せつなといっしょでなきゃ、たくさんの幸せゲット!できないよ。
今のこの気持はもしかしたら、未来にはなくなっているかもしれないけど。
ホラ、あたりまえのことなんてないでしょ」
本当にラブはいつも私の欲しい言葉をくれる。
嬉しさや哀しさや申し訳なさ、いろんな感情が私の体に溢れ、
体内から溢れ出たものは、目から一筋の涙として流れ出る。
声もなく泣いている私を見ていたラブが、突然、真剣な表情になって、
「せつな、いい?」
何がと問うまでもない。ラブの顔が近付いているのだから。
私はその問いに答えるように、目を閉じる。
「今日はあたしの番」
そう言い、私の唇に口づける。
啄むような優しい口付けは、私の口だけでなく、額、瞼、鼻、頬にも。
私の顔にキスの嵐が吹き荒れる。
最後に再び、私の唇に戻ってきて、舌で私の唇を開けるよう促してくる。
私はそれに応え、口を少し開ける。その狭い隙間からラブの舌が入ってくる。
ラブは挨拶するように私の舌をつつき、私も挨拶し返す。
優しいキスはだんだん熱を帯び、舌を絡ませ合うような濃厚なものへと変わっていく。
私がキスに夢中になっている間に、ラブの手は下の方へ。
いきなり下着の中に侵入し、昨夜私がしたように、入口に指の先しか入れてこない。
「せつな、どうして欲しい?」
あたしだって言わされるの、いつも恥ずかしいんだから。
と言って、私の顔を覗き込む。
私を恥ずかしがらせようと思ったんだろうけど、そうはさせない。
私は下着の中のラブの手を取って、自分の一番敏感な部分へと導き、
「ここを触って」
と命じる。
ラブはきょとんと、豆鉄砲でも食らったような表情をする。
そのラブの表情とこの場で行われていることのギャップが可笑しくて、
私の口から思わず笑いが漏れる。
「ふふふ」
「あはは」
一旦笑い始めたら、深夜だから止めなきゃという思いは、かえって笑いを増大させ。
私とラブはひとしきり笑った後、
「「もう寝よう」」
と、私とラブの声が見事に重なり、さらにお互い笑った。
私はその夜、ラブの腕に抱かれ、ラブに包まれて眠りについたのだった。
了
最終更新:2013年02月10日 17:04