【 スローリー・スローリー 】7




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「ゆうこちゃんって、もしかして犬か猫を飼ってる?」
 噴き出す汗を無視して裸身を抱き合わせている時に、ふと気になった祈里が、そんな質問をしてみた。祈里の髪に鼻先をうずめ、頭皮の匂いを嗅いでいたゆうこが「んー」と何やらよく分からない声を上げて、逆に質問してきた。
「祈里ちゃんは、犬か猫、どっちだと思う?」
「・・・犬」
 最初の質問も直感ならば、この答えも単なる直感。でも、ゆうこは祈里の髪から顔を離し、大きな瞳を丸くして素直に驚いてみせた。そして優しく微笑みながら告げてくる。
「正確には、飼ってた・・・だけどね」
「ご、ごめんなさい、わたし、ゆうこちゃんの事をもっと知りたかったから、つい・・・」
「いいの。 ――― 名前はね、デビット。次に会う時は、彼の事も色々話しちゃうね」
「うん、デビットの事、たくさん聞かせて」
 抱きしめる祈里の腕の中で、ゆうこの裸身がわずかに震えた。・・・・・・抱きしめている腕のチカラを強める。めずらしく甘えるようにゆうこが抱きつき返してきた。
「ねっ・・・、今の祈里ちゃんの体温、好きだよ。こんなに熱くなったカラダは、わたしたち二人だけのヒミツだからね」
「住所が遠くてなかなか逢えないけど、ゆっくりでいいから逢うたびに一個一個、ヒミツを積み重ねていくの。 ――― わたしたち二人の大切な隠し味を」


 大きなイベントは終わり、祈里が四つ葉町に戻って少し経った頃。
 ダンスレッスン後のドーナツタイムを満喫した帰り道で、一緒に歩いていた美希に話しかけられた。
「ねえ、ブッキー、最近いいコトでもあった?」
「特には・・・。うーん、ないかなぁ」
「ちょっと前から思ってたんだけど、ブッキー、昔に比べてどこかが変わったみたいな・・・、あ、もちろんイイ意味でね」
「そう? 全然変わってないと思うけど」
 祈里の隣を歩く美希が、親友に感じてしまった違和感の元を求めて記憶をたぐってゆく。いったん、はるかたちの歓迎会の記憶を通りすぎてしまってから、直感的にピンと来て、思索の焦点をそこへ戻す。
「ねえ、この前の歓迎会で、みんなが『地獄の一発芸大会』で盛り上がってる時、ゆうこと二人でどこかに消えてたけど、その・・・何かあったりとかした?」
 ――― あ、捨て身を通り越して、地獄だったんだ。すごい。
 妙な感心をしてしまった祈里が、ちらりと横目を美希へ向け、
「とっても優しい依頼人さんたちがきっかけを作ってくれたおかげで、色々あったりとかしたかも」
 そう言って、笑顔になる。
 気になった美希が、「えっ、色々って具体的に・・・」と何があったのかを訊こうとするが、はずむような早足になった祈里が彼女の前を行き、そして肩越しに振り返りつつ、人差し指をくちびるに当て、可愛らしくウインク。
「ごめんね。それはヒミツなの。ミステリアス」
「・・・へ?」
 呆気に取られている美希に手を振って家路を急ぐ。

 ぽつんと残された美希は、祈里の姿が見えなくなってから、つぶやいてみる。
「ヒミツにミステリアス・・・か」
 去り際に祈里が口にしたその言葉。美希の舌の上で、なんだか大人の味がしたような・・・・・・。

(おわり)