【 スローリー・スローリー 】2




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 結局、二人は布団の下へ疎開することにした。一枚の敷布団の上にうつ伏せの身体を並べて、掛け布団を頭まですっぽりと被る。シェルターとしては頼りないけれど、何もないよりはマシと祈里は割り切る。
 頭上に出来た掛け布団の隙間から、部屋の照明が入ってくる。そのため、薄暗いとはいえ視界はある。すぐ隣に目をやると、ゆうこはなんだか少しワクワクしている様子。
「こうしてると、二人だけの秘密基地みたいで、ちょっと楽しくない?」
「ふふっ、ゆうこさんって小さな子供みたい」
 ホテルに振動が走るたび掛け布団の下で身を寄せ合ってドキドキして、悲鳴とか笑い声とかが聞こえてくるたび、みんなはどんな一発芸をやっているんだろうと二人で色々想像しながら一緒に笑って・・・・・・。
 そのうち外が静かになった頃、祈里は先ほど告白しそびれた言葉を、ゆっくりと口に出していった。恥ずかしいので、表現は出来る限りぼかしてみたものの、中学生レベルの知識があれば何をしているか充分に理解できてしまう。
 かくして祈里は ―――――― ゆうこに叱られてしまった。

「・・・えっ?」
「え、じゃないでしょ、祈里ちゃんっ。どうしてそれが悪い行為だって思っちゃうの?」
「え、でも・・・」
「あのね、祈里ちゃん、女の子がエッチな気持ちにならないと、次の命は産まれてこないんだよ? 人類は滅んじゃうんだよ? 祈里ちゃんは、この地球を死の星にしたいの?」
「いや、そんな・・・・・・」
 話が飛躍しすぎていると思ったけれど、ゆうこが意外と真剣な表情をしているので戸惑ってしまう。ただ、祈里がずっと抱いていた罪悪感を、チカラ強く否定してくれているのは解った。
「その、ありがとう、ゆうこ・・・ちゃん」
 呼び方の小さな変化だが、祈里の気持ちの変化は大きい。それに気付いたゆうこが嬉しそうな顔で「どういたしまして」と答える。
「とりあえず、依頼は達成ってコトでいい? 祈里ちゃん」
「うん」
「じゃあ、依頼人さんには、祈里ちゃんはもうダイジョウブだって伝えておくね。・・・・・・でも、さっきの話は、わたしと祈里ちゃんだけのヒ・ミ・ツ」
 ゆうこが可愛らしくウインクしてみせる。
「ヒミツはね、女の子を綺麗に見せるための隠し味なんだよ」
「ふふふっ、ゆうこちゃんらしいね、その言葉」
 掛け布団の下で二人の少女が向き合う。自分のヒミツを知るゆうこに見つめられるのは、少し恥ずかしいけれど、嫌な気分ではない。心のどこかがムズムズするような、くすぐったい感覚。
「ねえ、祈里ちゃん」
 ゆうこのまなざしが、微かに伏せられた。
「・・・・・・わたしの隠し味、知りたい?」

 ――― もし、祈里がゆうこともっと早く仲良しになっていれば、そして、彼女と2年前まで一緒だった愛犬デビットのことを知っていれば、女の子の直感でたどりつけたかもしれない。
 ゆうこ自身でも気付けないぐらい、心の深くにある感情に。
 手の届かなくなってしまったぬくもりに対する、切ないほどの想いに。
 残念ながら、祈里は両手をぎゅっとコブシのカタチに握り、ゆうこの告白にドギマギするばかり。まばたきするのも忘れて、全神経を鼓膜に集中させている。
 だから、その様子をこっそりとゆうこが楽しんでいることなど知る由もなく・・・・・・。

 顔も体格も正確にイメージ出来ていない『彼』との逢瀬。ベッドに押し倒され、強引に身体をまさぐられているところを想像して自分の胸などをさわっていく。 ――― この部分だけで、祈里にとっては充分すぎるほど刺激的だったのに、ゆうこのヒミツはまだまだ続く。
「・・・・・・しばらくするとね、わたしが着ているモノを全て脱がそうとしてくるの。わたしは恥ずかしくて抵抗するんだけど、チカラじゃ全然かなわなくて」
「ひどいっ・・・」
「あー、その、違うの。脱がされるのを本気で嫌がってるわけじゃないの。そんな風にされてるのを想像すると、エッチな気分が盛り上がってくるっていうか」
「ゆっ、ゆうこちゃん大人だぁぁーー」
 祈里の顔が真っ赤にほてる。話を聞いているだけで、思考が沸騰してしまいそう。
 自分なんて、テスト勉強が捗(はかど)らなくて、その息苦しいような閉塞感のストレスから思わずカラダを触ってしまう程度だ。いやらしく動く自分の手に、誰かの手の感触を重ねたことなど一度も無い。
 対してゆうこは、想像とはいえ、積極的にスキンシップを求めている。
(すごいっ、ゆうこちゃん、わたしより一歩も二歩も先を行ってるっ・・・!)
 ゆうこが、不意に祈里の目を見つめてきた。二人の視線がぶつかった瞬間、祈里の胸の奥が甘く疼くみたいに震えた。恥ずかしさが募ってきて、さらに顔が熱くなった気もするが、まなざしは外さない。
 もっとゆうこのヒミツを ――― 続きを聞きたい。

 ゆうこが、くすっ、と微笑みでくちびるを緩ませ、告白を再開した。
「わたしがどんなに抵抗してもね、けっきょく最後は服も下着も全部脱がされちゃうの。
――― 祈里ちゃん、想像してみて。目の前に男の人がいるのに、何一つ身に着けてない自分の姿を。どんな気分になる?」
 ・・・ぶるっ、と祈里が身震いした。恥ずかしすぎて、想像するなんて無理っ。
 心拍数が上がったせいか、数秒ほど、胸の下にむず痒さを覚えた。後ろめたさを感じながらも初めていやらしい行為に耽った時の感覚に、なんとなく似ている。
 また、くすっ、という小さな笑いがゆうこの口から洩れた。
「ベッドの上でハダカにされちゃったわたしはね、たまらなく心細くて今にも震え出しそうな状態なのに、カラダをいやらしく触られると、それがすごく気持ちよくて」
 そう語るゆうこの表情(カオ)は、微かに上気している。元気な明るさが取り柄の笑顔に、官能の媚薬を一滴垂らしたかのごとく。
 お互いうつ伏せで、布団に両ひじを着いて、顔だけを向き合わせている格好だから ――― 祈里には、ゆうこの腰が微妙にもぞもぞ動いた事なんて解らない。
「わたしはね、もう胸を乱暴に掴まれても抵抗する気は起きなくて、お願い、許してって、そればかり。もちろん許してなんてもらえないの。そ、その・・・赤ちゃんを産む場所を、ゆ、指でかき回すみたいにされて、もうね、手がビショビショになっちゃうぐらい激しく・・・・・・」
 ゆうこの声が震えている事にも気付けない。祈里はただ、ほてりを覚え始めたカラダが内側からムズムズしてくる感覚を、隣の少女に悟られないよう、必死で抑えようとしていた。
(だめっ、ゆうこちゃんが・・・いるのに・・・・・・、変なキモチになったりなんてしたら・・・・・・)

 自分でも知らないうちに両目を閉じてしまった祈里の顔を、ゆうこが微笑を含んだ瞳で眺める。祈里の努力もむなしく、最初から全て見透かされてしまっている。
 そして、距離的には数ミリほどだろうか、祈里の耳に近づいてきた口が扇情的に続けた。
「お嫁に行けなくなるような恥ずかしいポーズでやった時が一番すごかったかなぁ。
無理やりそういう格好を取らされてイジメられてるっていう想像だったんだけど、だんだんと気持ちが入っちゃってね。最後は本気で泣きながら指を動かして・・・・・・」
 びくんっ・・・!
 小さくだが、すぐ隣の相手には分かる程度にハッキリと、祈里の右太ももが跳ね動いてしまった。自分の意志ではなく、突然、腰の奥深くに湧いた疼きのせいだ。
(あっ・・・!)
 カァァーーッと、祈里の顔が熱くなる。大失敗したような表情で固く目をつむる。
 思春期の色香をさりげなく発していたゆうこが、あらあら、といった感じでにこやかな笑顔になった。可愛い娘のおねしょを見つけた母親みたいな表情である。
 でも、すぐに笑みを仕舞って、優しい表情で隣の祈里と肩同士をそっと触れさせる。
「ごめんね、祈里ちゃん。最初はね、わたしのヒミツも教えて、おあいこにするだけのつもりだったの。けどね、祈里ちゃんの反応見てるうちに、なんだかちょっと・・・・・・」
 ゆうこが途切れさせた言葉を、祈里が胸の中で引き継ぐ。
(興奮・・・しちゃった?)
 わたしと ――― 同じなの ――― ?

 祈里がまぶたを開いて、隣を向く。視線を合わせたゆうこが、ぎゅっと握られた祈里のコブシに触れてくる。固く握られた指をほぐすみたいに、彼女の指が静かに這って・・・・・・。
「ねえ、祈里ちゃんも、いやらしい気分になっちゃった?」
 きもちのいいくすぐったさに、祈里の指から自然にチカラが抜ける。ゆうこの指が手の内側に滑り込んでくる。手の平をいたずらっぽくなぞられるこそばゆさに、思わずその指を握ってしまう。
「ゆうこちゃんが、そういう気分にさせたんじゃない。もおっ」
 隣の少女をとがめるような声音。・・・なのに、どこか甘ったるい。
 握っていた手を開くと、ゆうこがコショコショと指を動かしてくる。こそばゆくて、すぐにぎゅっと握る。しばらくして再び手を開くが、また同じことの繰り返し。
 掛け布団の下で、二人が顔を見合わせて笑う。
 ――― 待っていても、ゆうこが言い出してくれないので、仕方なく祈里が、その羞恥に震える唇に勇気を乗せることになった。
「女の子同士でもいいんだったら ――― わたしと、しよ」