【大切な居場所】/恵千果◆EeRc0idolE




 いたずらな風がふわりと吹いて、黒髪をなびかせ、頬を優しく撫でてゆく。
 まだ2月だが、晴れた日には暖かな陽が射して、こんな風に穏やかにわたしを包む。
 きっと、すぐそこまで春が近づいて来ている。
 ちょっとだけ乱れた前髪を手櫛で直しながら、ある場所を思う。

 故郷。
 春の来ない国。
 ただ、あそこを故郷と呼べるのかは、今のわたしにはよくわからない。

 今のわたしの故郷。それは大切な仲間たち。
 彼女たちのそば。それが、わたしのたったひとつの居場所だった。



 しあわせの素はもうない。自分で壊してしまったから。
 だけど、わたしには美希と祈里がいる。そして……ラブがいる。
 それだけじゃない。あたたかな家族、あたたかな街のひとたち。
 故郷って、生まれた場所だと思っていた。
 でも、確かにここも、わたしの故郷。わたしが生まれ変わった場所。



「せつなー、お待たせー」
 ラブが、手を振りながら駆け寄ってくる。

「ラブったら、遅いわよ」
「ごめんごめん、ちょっと後輩たちに捕まっちゃってさ」
「どして?」
「ほら、バレンタイン」
「やだ、また貰ったの? 休み時間にも、あんなにたくさん貰ってたじゃない」
「だって、義理だしさ」
「義理かしら」
「義理に決まってるって。それに、義理じゃなくても関係ないし」
「どして?」
「だって、あたしにはちゃんと本命がいるんだもん」

 やだ。顔が熱い。よくそんな恥ずかしいことが本気で言えるわね。
 ラブはにこにこして、わたしを見つめる。

「せつな?」
「な、なに?」
「本命チョコ、欲しいな」
「……ない」
「ない!? ウソだー!」
「慌てないで。うちよ。机の引き出しの中にしまってあるの」
「なんだー、安心した。さっさと帰ろ。早く食べたい」
「夕食のあとにね」
「えー!! 意地悪~」

 しあわせな時間が、わたしを穏やかに包む。
 ずっと、ずっと、このひとの隣にいたい。ラブの隣がわたしの居場所。ラブが、わたしのしあわせの素。