中学生特有の病気(心の方の)/そらまめ




「ど、どうしたのっ? 怪我?! 怪我したのせつなちゃんっ!!?」
「お、落ち着いてブッキー! せつな怪我なんてしてないから!」
「じゃあなんで右目に眼帯を…もしかしてものもらいとか?」
「ううん…それも違うんだよ…」
「?」

休日、いつもの公園で待ち合わせのためみんなを待っていた祈里は、若干疲れた様子のラブと、思いつめたように険しい顔をしたせつなを見つけて思わず駆け寄った。
ものもらいの時などにする一般的な白色の眼帯に思わず手を伸ばす。怪我でも病気でもないならなぜこんなものを…

「っ! 触っては駄目よブッキー!!」
「えっ!? ご、ごめんねせつなちゃん…やっぱり怪我したの…? 大丈夫?」
「ごめんなさいブッキー…でも、この眼帯は取っては駄目なの…外してしまったら、私にも手が付けられないかもしれない…」
「え? え? どういうこと…」
「この右眼にはかつて世界を滅ぼしたと言われている伝説の獣神の力が封印されているの。もしこれが解放されたら私は私でいられなくなってしまう。この街だけじゃなく世界を滅ぼす存在となってしまうかもしれないの。だから、これはいくらブッキーのお願いでも外せないのよ」
「………ほんとにどうしたの」
「ブッキー真顔であたしの顔見るの止めて。あと眼が死んでるよ戻ってきて!」




眼帯をしたせつなはいつものようにドーナツとドリンクを目の前に、やはり険しい顔を崩さない。時折右眼を触りながら、「ぐっ鎮まれっ! お前はまだ出てきちゃいけないっ!」
とか「ふふふっ、私の意識を乗っ取ろうとしてるみたいだけどそうはいかないわよ…」などと小声でぶつぶつ言いながら、たまに左腕もさすっていた。

「ごめんみんなっ、今朝の仕事が押しちゃって遅れちゃった…ってどうしたのラブ、ブッキー、目が死んでるわよ」
「「……」」
「あとせつな、眼帯なんてしてどこか怪我したの? 病気?」
「怪我でも病気でもないんだよ美希たん…」
「ぐぁっ…! また、封印を解こうとやつらが攻撃をっ…! みんな私から離れてっ!!」
「…………病気じゃない。心の」
「ああっ…美希たんの目まで死んだ魚みたいに…」

「ラブ、アレ、説明、ハヤク」
「なんで若干片言な上に命令口調…」
「心を病んじゃってるんだよねきっと…ほら、せつなちゃんって抱え込んじゃう所があるから日頃溜まったストレスがここにきて消化不良をおこしちゃってるんだよ!」
「ブッキー、アタシ何かの雑誌で読んだけど、こういうのって無理やり理解してあげようとすると返ってダメージが大きいらしいわよ」
「せつながああなったの実はよくわからなくて…昨日の夜学校の宿題の調べもので一緒にパソコン使ってたんだけど、あたし途中で寝ちゃって…起きたらあんな感じに…」
「原因はパソコンね」
「そうだね。それしか考えられないよ」
「あ、やっぱりみんなもそう思う? だよねえせつなの口から獣神とか普通でてこないよね…」

三人揃ってせつなを見た。視線に気づかない当の本人は左腕を抑えながら「ぐ、勝手に私の体を操作しようっていうのっ? そうは、させないっ!!」とか言いながらドーナツを掴もうとする左手を反対の手で抑えるというひとり芝居をしていた。この光景を見る自分の目がなんだか濁ったような気がするが、現実から目を背けちゃだめだ!と心の中の葛藤の末、思い切ってせつなに話しかけてみる事にした。

「せつな、よく聞いて。あなたは今病気なの。とても深刻な」
「み、美希ちゃんっ! ストレートすぎるよっ」
「ブッキー、こういう輩には自身を客観的に見るってことが完治させるには必要なのよ」
「美希…わかってるわ自分が病気だってことくらい…でもね、この苦しみは分ける事はできないの。この宿命から逃れるなんて無理なのよ。だから向き合わなくちゃ。現実と」
「なんだろう。合っているようで合っていないっていうか、せつなの現実がよくわからないよあたし…」
「宿命とかって単語があれよね。せつな、あなたのその病気はね、一種の思い込みのようなものなのよ。わかる?」
「ええ。誰にも理解されないって事は分かるわ。だってみんなには、前世の記憶ってないでしょ?」
「ああぁあ…」
「美希たん諦めちゃだめだよっ」
「でも、イースを前世と考えればせつなちゃんには前世の記憶があるって言えるかも…」
「ブッキー真面目に考えちゃダメっ!」
「私の中の力が暴走してしまう前に何とかしないと…」
「せつな落ち着いて!! 今暴走してるのはせつなの妄想だよっ!!」


収拾がつかなくなりそうだったので一旦言い争いは止めました。
その後、どうやっても会話が噛み合わなかったので半ば諦めたように様子を見る事にした面々は解散した。

結局、それからせつながいつものせつなに戻ったのは一週間後の話。



競作2-28は、この事件の「裏」のお話。