翼を授かりたい/そらまめ




「…空を~自由にーとーびたいなーっ」



昼下がりでもまだ寒い時期。
いつものようにパラソルの下でドーナツを食べる面々が、いつものように適当に話をして、いつものようにのほほんとしていたそんな時、いつもならそんな事をしないであろう人物が突然鼻歌っぽいものを歌いだした。
しかも微妙に音が外れている。

「ぶっはっ…! げっほ、ゴホ…ど、どどどうしたの、せつなっ!?」
「せつな、悩み事…? 聞くわよ?」
「せつなちゃんっ、どこか具合悪いの?」

「…え? どうかしたのみんな…?」
「「「え」」」

よくよく見ると目が据わっていました。


~会議中(せつな除く)~
「ちょっとちょっとせつなどうしちゃったの?」
「わ、わかんないよっ」
「やっぱり体調悪いんじゃない…?」
「うーん、昨日も家では普通だったんだけど…」
「普段なら突然あんな唄、歌いだしたりしないでしょ。ラブならともかく」
「ちょっと美希たんそれどういう意味さ!」
「どうもこうもそのままの意味よ」
「あたし突然歌いだしたりしないもんっ」
「えっ…」
「ちょ、ブッキーなんでそんな信じられないみたいな顔するの!」
「いやだって突然ダンスし始めるっていう前科もあるし」
「なんで犯罪者みたいな言い方を…」
「大丈夫だよラブちゃんっ、わたしラブちゃんがどんな事をしてても、ずっと友達でいるからね!」
「ブッキー!」
「ラブはなんで嬉しそうなの。ブッキーの言った事よく思い出しなさいよ…」
「美希ちゃんひどいっ、わたしがラブちゃんにヒドイこと言ったっていうの? そんなことするわけないよっ」
「ははっ…」
「あぁっ!美希たんがなんだかせつなみたいに遠い目を…」


「ねえ、みんなは空を飛びたいって思ったことある? 私ね…――」


「え、ちょっとせつな一人でなんか語りだしたんだけど」
「あーあ、二人が構ってあげないからせつな拗ねちゃったんだよ」
「ラブちゃん、二人って誰と誰の事か念のため確認してもいいかな…?」
「え、あ、ぁの、美希たんと…あたしの事に決まってるじゃんははは」
「ブッキーっ! ラブがカタカタしてるからその笑顔で見るの止めてあげてっ!!」
「えー、別に普通にしてるだけなのに二人とも変なのー」


「――…で、その時私思ったの。空を飛んでみたいなって」


( ( ( あ、二人との会話に夢中で話全然聞いてなかった… ) ) )

理由は分からないが、とにかくせつなは今空に憧れているようだった。





「私達って、プリキュアでしょ?」
「え、うん。そうだね」
「プリキュアって一般の人よりは力があるから、勢いよくジャンプしたらそれこそビルを飛び越えられそうなくらいには高く行けるけど、羽が生えてる鳥みたいに飛ぶのと何か違うのかなって」
「は、ね…」
「ああぁ! なんか美希たんがさっきのあたし並にカタカタしてる!」
「気を確かに美希ちゃん! あれでも羽になにか嫌な思い出でもあったっけ…?」
「いえ、なんだかよくわからないけど体中に鳥肌がたったみたいで…」
「風邪なの美希? 早く帰って寝た方がいいんじゃない?」
「なんでさっきまで心配してた相手に気遣われなきゃいけないのよ…」

未だここではないどこかを見るせつなの眼には、妄想の上空が見えているのだろうか。先程からぼーっと空を見るラブにつられて美希も空を見上げた。
届かないから目指すというのは人間の欲求なのだろうか。憧れが強すぎるととある唄のようにいつか燃え尽きてしまうのではないかと思った。
誰がとは言わないけれど。

「どこかに羽、落ちてないかしら…」
「え、羽? 羽ならハトが落としたのが足元にいっぱい…」
「ラブちゃんちょっとお口にチャックしてみようか」
「ふへっ!? もがむぐっ……ぅっ…!」
「ブッキー! ドーナツ口に詰め込むの止めて! ラブが息してない!」

その時のラブには一瞬だけ、背中に羽が生え頭に輪っかをのせた全裸の子供たちが空からやってくるのが見えたそうです。