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''フェイツVSションディ・フェネキッス/二十日'' ※[[ションディ・ファリーナ契約ルート B/にわとりとり]]の続き 【登場キャラ(敬称略)】 [[ションディ]]、[[ファリーナ]]、[[フェイツ]]、[[フェネキッス]] ---- 三つの太陽が燦々と照り、陽炎が砂の大地を舐めている。 見渡す限り広がる砂漠に小さな黒点が落ちている。漆黒の鎧、もしくは翼を持った宇宙船を思わせる黒い外殻が砂漠に佇んでいた。ただただそこに在った。砂地に着いたまま微動だにしない。太古の建造物だと説明されたら、人はそれを信じるだろう。 黒い鎧に両の足はなかったが、無い膝を折り、頭を垂れ、跪いているかのように見えた。祈りの姿にも似ていた。 差し出された両腕らしき部位は不自然に捻じ曲がっている。歪な掌の上には人間が横たわっている。項垂れる黒い鎧がその体に深い影を落とす。人間もまた動かない。太古の建造物とひとつになり、静かに佇んでいた。 風ばかりが鳴いている。黒い鎧の隙間を、人間の胸に空いた風穴を通り抜け、虚しい音を立てる。 鎧の悪魔、ションディは人間の名を呼んだ。 「………ファリーナ…」 人間、ファリーナはションディの友だった。 ションディが友の名を呼ぶ声は誰にも届かない。腕の中の友は既に息絶えていた。 悪魔フェイツは上空からその光景を見下ろしていた。 友の死を悼む機械悪魔ションディを俯瞰する、フェイツの真っ黒な眼には僅かな憐憫もなかった。 フェイツはファリーナを殺した。しかしそれは契約に従ったまでの事だ。ファリーナの父親が息子の魂を差し出し、フェイツが奇跡の報酬として受け取る。それだけの取引だったというのに、ファリーナがションディを味方に引き入れ逃げ回るようになってからは随分と手こずらされてしまった。正当な取引を「友を救うため」などというふざけた理由で反故にされかけ、もう吐く反吐もない程だ。 だが鼬ごっこもこれまで。魂の回収は済んだ。あとは太陽と砂ばかりのこの星から帰還するのみだ。呪いで虜にしておいた悪魔フェネキッスが、すぐさま元の世界に帰してくれるだろう。 フェイツは肩口を振り返った。 「サァ、もうここに用はありマセン。帰りマショウ。フェネキッ…」 おや、と言葉が止まる。フェイツの肩にちょんと乗っていたはずのフェネキッスが居ない。 上空へ飛ぶ途中で落としたのだろうか。フェネキッスはただのタコとそう変わりない脆弱な悪魔だ。フェイツの飛行中は魔法具「銀晶銀翼」を落下防止の柵にしていた筈なのだが。 面倒に思いながら高度を落とし、広すぎる砂漠に目を凝らすと果たしてフェネキッスは見つかった。乾いて小さくなり、ひらひら砂を漂う萎びた物体。悪魔というよりただの干物である。 世話の焼けるやつだ。さっさと水を吸わせて回収しよう。指を差し出したフェイツだが、異変を察知しすぐに手を引いた。 砂漠を漂う干物が突然色艶を取り戻し、ぶわりと触手を広げた。砂漠に触手で出来たおぞましい花が開く様を見下ろしながら、フェイツは微笑する。全く、本当に世話の焼けるやつ。 「正気を取り戻しましたカ。いい夢見れマシタ?」 数十メートルに拡大した花弁の中心から、フェネキッスが人間の姿で現れた。顎を反らし空に腰掛けるフェイツを真っ直ぐ見上げている。 フェネキッスは脆弱な悪魔だが、代わりに無限ともいえる命を持っている。干からびて一度死に、新しく蘇ったフェネキッス。フェイツの虜となる愛欲の呪いも一緒に干からびてしまったのだろう。 フェイツは銀晶銀翼をいつでも展開できるよう意識を向けた。懐の魔法具「桃色の硝子玉」に手をやることも忘れない。新しいフェネキッスは愛欲の悪魔を許さないだろう。愛の虜にして散々利用された記憶だけはしっかり受け継いでいるのだから。 フェイツの想像通り、フェネキッスの笑みは怒気で歪んでいた。 「ええ全く、控え目に言っても最悪の夢で御座いました」 巨大な触手が突如せり上がった。 物量重量を無視したかのような、ほとんど冗談のようなスピードだった。人の銅より太い触手数百本がフェイツを飲み込まんと迫る。砂漠が一瞬で触手の密林だ。 しかし悪魔の飛行は冗談より早い。フェイツは咄嗟に両腕を翼に変えた。燕の軽やかさで更なる上空へ逃れる。残る銀晶銀翼に絡みついた触手は一瞬の間も置かず千切れ飛んだ。 フェイツが空を翔け触手をかわす傍ら、地上のフェネキッスは背中まで反らしヒステリックに叫んでいる。 「アア、アアアァ、嘆かわしい!」 切り刻まれた触手がすぐさま再生しフェイツを追従する。横に上にと間一髪で避けながら、フェイツは近くなった太陽と微かな疲労で汗が滲むのを感じた。ファリーナ戦で消耗した手前いつまで回避できるだろうか。銀晶銀翼でフェネキッスを狙う隙がない。桃色の硝子玉を手に取る暇すらない。どれもこれもファリーナがこんな星まで逃げ惑ったせいである。美しい広大な砂漠だが、今はただ逃げ場のなさが忌々しかった。 「悪魔なぞにいいように使われちゃっている間、契約活動が1秒ぽっちも進まなかったのですよ!?実に嘆かわしい!」 フェネキッスが一際大きく猛る。その声が届くか否かの時分、フェイツはふっと自分の体に影が掛かるのを感じた。 影?太陽に迫る高さを飛んでいたのに?疑問を抱くより先に理解する。視界は触手の斑点模様で既に一杯になっていた。包囲されている。天を突く高さの巨大な触手群が、フェイツの飛ぶ空域数キロごと飲み込んでいた。 銀晶銀翼! 意識と同時に銀翼が煌めいた。宙を舞う波刃がフェイツの眼前に怒涛の群れを成し、一本の巨大な剣を作り上げる。船を思わせる規模の白刃が触手の壁に突き刺さった。どれほど大きかろうが、柔らかな触手を両断する事など訳もない。 しかしいくら切り薙いでも触手の壁に突破口は開かなかった。白刃は触手に埋もれるばかりで、沼でも切っているかのような手応えだ。予想を上回る量の触手が迫っている。 やがて銀晶銀翼ごと、フェイツの体は触手の濁流に飲み込まれた。 巨木程の太く大きいものから指程の細さのものまで、様々な触手がフェイツの全身を絞り上げた。触手は一本一本が濡れて舌の如く蠢き、体を這われる嫌悪感は筆舌に尽くしがたい。思わず声を上げそうになる。だからこいつは嫌なんだ。汚らわしい! フェイツはあっという間に触手の壁へ磔にされてしまった。 触手の大部分がしゅるしゅると砂地へ戻ってゆく。フェイツも地上まで引き摺り下ろされる。視界を遮っていた触手のカーテンが引かれ、触手に手足を拘束された格好のまま、フェイツは再び太陽の下にさらけ出された。 「…あれだけ睦言交わした仲なのにつれませんネ、ご褒美あげませんヨォ?」 「頂けなくともまあまあ結構」 磔刑を眺める野次馬さながら、フェイツを見上げるフェネキッスはさもおかしそうに笑っていた。 獲物を捕まえいい気になっているに違いない。フェいつは上級悪魔たる態度であしらいながら、触手から逃れフェネキッスをくびり殺す方法を案じる。 フェネキッスはどう見ても油断している。しかし流石に桃色の硝子玉を取り出す余地は与えてくれない。 「…そうそう」 何か思いついたらしい、フェネキッスはしゅるんと音を立ててその場から消えた。 フェイツの眼前に触手の塊がぶらんと下がり、触手をかき分けるようにフェネキッスが姿を現す。触手間を自在に移動するとはますます気色の悪い。頭を下にした宙ぶらりんの姿はハングドマンの様相である。 フェネキッスの髪、もとい触手に縛られているのはフェイツの方なので、フェネキッスから見ればフェイツこそが「吊られた男」なのだろうが。 鼻と鼻がくっつかんばかりに顔を近づけられ、細い触手で髪飾りをちりちり弄ばれる。フェイツは眉根を寄せた。 「アナタもしや知りませんでしたっけ?ワタクシの『言葉』は悪魔にはどうも通用しないのです」 知っている。 というよりも、ファリーナを追う最中に知った。「ションディは移動能力を使えない」と言わせても効果がなかったのだ。 「ワタクシとて悪魔の端くれ」 フェネキッスがこれ以上ない程に両目を細めて笑う。 「『悪魔フェネキッスは悪魔フェイツの魂を決して奪わない』…そんな言葉は無意味だったのかもしれないと、消え行く魂に精々お留めくださいませ」 耳に響く凄絶な笑い声。フェイツの手足を捉える触手が体を引き裂かんと動き始める。思わず苦笑いが漏れた。 「教えてくれてありがとう、お馬鹿サァン」 太陽光を受けた銀色が輝く。 斬撃一閃。フェネキッスの首は触手もろとも音もなく千切れた。 フェイツは武器を手元から離すような下手は打たない。大部分が触手に捕らわれていた銀晶銀翼だが、攻撃に足る量は懐に隠し持っていた。油断しきって自分から距離を詰めたフェネキッスの間抜けには、何が起こったかも分かるまい。 「アナタ懲りてな…あ……?」 白目を剥いたフェネキッスの首が砂地へ落ちてゆく。 触手の拘束が緩む。首が砂地にぼとりと落下するまでに、フェイツは拘束を抜け出し銀晶銀翼の大翼を呼び戻し終わっていた。不利な状況からは脱したが魔力を消費し過ぎた。安堵を挟む暇もなく桃色の硝子玉を取り出す。 フェネキッスの復活には恐らく数秒掛かる。復活の瞬間に愛欲の呪いで再び虜にしてしまえば、やっとおぞましい触手相手の戦いも終わる。盛大にため息でもつきたい気分だ。下級悪魔め、呪いで主導権を握ったら死なない程度に虐めてやる。 桃色の硝子玉を握りフェネキッスの首に意識を集中させる。 瞬間、激しい衝撃がフェイツを襲った。 豪音と共に砂が舞い上がる。体に何かが衝突した。痛みで呼吸と思考が一瞬遅れる。体中を締め付ける何かは触手の柔らかく濡れた感触ではなかった。重厚な金属に容赦なく押さえつけられている。 数メートルはあろうかという漆黒の鎧、その巨大な手にフェイツは掴まれていた。 「ションディィイ!」 「友の安らかな鎮魂が為、貴様を野放しにはできぬ!」 重低音の悲痛な声をあげるションディへと、銀晶銀翼が殺到する。 金切り音を上げて無数の刃に切りつけられながら、それでもションディの手は緩まない。殺意を以て握られたフェイツの体は既に痛みを通り越し砕け散りそうだ。折れた指では桃色の硝子玉を取り落とさぬよう力を込めるだけで精一杯である。 「アアァア!どいつモこいつモ邪魔バカリ!!」 呼吸もままならない中で叫んだ。 魔力を振り絞り銀晶銀翼を操る。ションディの背後では触手の山が再び隆起し、フェネキッスの復活を告げている。この状況をどう突破しろというのだ?魔力の補充ならできる。ファリーナの魂を使えばいい。だがそれでは本末転倒どころか文字通りの骨折り損である。 本当に、どれもこれもファリーナのせいじゃないか。 砂漠のどこかに埋まっているであろう死体へ呪詛を向け、フェイツは太陽を仰いだ。 ---- ↓オマケの挿絵的イメージ [[フェイツVSフェネキッス落書き/二十日]]
''フェイツVSションディ・フェネキッス/二十日'' ※[[ションディ・ファリーナ契約ルート B/にわとりとり>http://twishort.com/DAVcc]]の続き 【登場キャラ(敬称略)】 [[ションディ]]、[[ファリーナ]]、[[フェイツ]]、[[フェネキッス]] ---- 三つの太陽が燦々と照り、陽炎が砂の大地を舐めている。 見渡す限り広がる砂漠に小さな黒点が落ちている。漆黒の鎧、もしくは翼を持った宇宙船を思わせる黒い外殻が砂漠に佇んでいた。ただただそこに在った。砂地に着いたまま微動だにしない。太古の建造物だと説明されたら、人はそれを信じるだろう。 黒い鎧に両の足はなかったが、無い膝を折り、頭を垂れ、跪いているかのように見えた。祈りの姿にも似ていた。 差し出された両腕らしき部位は不自然に捻じ曲がっている。歪な掌の上には人間が横たわっている。項垂れる黒い鎧がその体に深い影を落とす。人間もまた動かない。太古の建造物とひとつになり、静かに佇んでいた。 風ばかりが鳴いている。黒い鎧の隙間を、人間の胸に空いた風穴を通り抜け、虚しい音を立てる。 鎧の悪魔、ションディは人間の名を呼んだ。 「………ファリーナ…」 人間、ファリーナはションディの友だった。 ションディが友の名を呼ぶ声は誰にも届かない。腕の中の友は既に息絶えていた。 悪魔フェイツは上空からその光景を見下ろしていた。 友の死を悼む機械悪魔ションディを俯瞰する、フェイツの真っ黒な眼には僅かな憐憫もなかった。 フェイツはファリーナを殺した。しかしそれは契約に従ったまでの事だ。ファリーナの父親が息子の魂を差し出し、フェイツが奇跡の報酬として受け取る。それだけの取引だったというのに、ファリーナがションディを味方に引き入れ逃げ回るようになってからは随分と手こずらされてしまった。正当な取引を「友を救うため」などというふざけた理由で反故にされかけ、もう吐く反吐もない程だ。 だが鼬ごっこもこれまで。魂の回収は済んだ。あとは太陽と砂ばかりのこの星から帰還するのみだ。呪いで虜にしておいた悪魔フェネキッスが、すぐさま元の世界に帰してくれるだろう。 フェイツは肩口を振り返った。 「サァ、もうここに用はありマセン。帰りマショウ。フェネキッ…」 おや、と言葉が止まる。フェイツの肩にちょんと乗っていたはずのフェネキッスが居ない。 上空へ飛ぶ途中で落としたのだろうか。フェネキッスはただのタコとそう変わりない脆弱な悪魔だ。フェイツの飛行中は魔法具「銀晶銀翼」を落下防止の柵にしていた筈なのだが。 面倒に思いながら高度を落とし、広すぎる砂漠に目を凝らすと果たしてフェネキッスは見つかった。乾いて小さくなり、ひらひら砂を漂う萎びた物体。悪魔というよりただの干物である。 世話の焼けるやつだ。さっさと水を吸わせて回収しよう。指を差し出したフェイツだが、異変を察知しすぐに手を引いた。 砂漠を漂う干物が突然色艶を取り戻し、ぶわりと触手を広げた。砂漠に触手で出来たおぞましい花が開く様を見下ろしながら、フェイツは微笑する。全く、本当に世話の焼けるやつ。 「正気を取り戻しましたカ。いい夢見れマシタ?」 数十メートルに拡大した花弁の中心から、フェネキッスが人間の姿で現れた。顎を反らし空に腰掛けるフェイツを真っ直ぐ見上げている。 フェネキッスは脆弱な悪魔だが、代わりに無限ともいえる命を持っている。干からびて一度死に、新しく蘇ったフェネキッス。フェイツの虜となる愛欲の呪いも一緒に干からびてしまったのだろう。 フェイツは銀晶銀翼をいつでも展開できるよう意識を向けた。懐の魔法具「桃色の硝子玉」に手をやることも忘れない。新しいフェネキッスは愛欲の悪魔を許さないだろう。愛の虜にして散々利用された記憶だけはしっかり受け継いでいるのだから。 フェイツの想像通り、フェネキッスの笑みは怒気で歪んでいた。 「ええ全く、控え目に言っても最悪の夢で御座いました」 巨大な触手が突如せり上がった。 物量重量を無視したかのような、ほとんど冗談のようなスピードだった。人の銅より太い触手数百本がフェイツを飲み込まんと迫る。砂漠が一瞬で触手の密林だ。 しかし悪魔の飛行は冗談より早い。フェイツは咄嗟に両腕を翼に変えた。燕の軽やかさで更なる上空へ逃れる。残る銀晶銀翼に絡みついた触手は一瞬の間も置かず千切れ飛んだ。 フェイツが空を翔け触手をかわす傍ら、地上のフェネキッスは背中まで反らしヒステリックに叫んでいる。 「アア、アアアァ、嘆かわしい!」 切り刻まれた触手がすぐさま再生しフェイツを追従する。横に上にと間一髪で避けながら、フェイツは近くなった太陽と微かな疲労で汗が滲むのを感じた。ファリーナ戦で消耗した手前いつまで回避できるだろうか。銀晶銀翼でフェネキッスを狙う隙がない。桃色の硝子玉を手に取る暇すらない。どれもこれもファリーナがこんな星まで逃げ惑ったせいである。美しい広大な砂漠だが、今はただ逃げ場のなさが忌々しかった。 「悪魔なぞにいいように使われちゃっている間、契約活動が1秒ぽっちも進まなかったのですよ!?実に嘆かわしい!」 フェネキッスが一際大きく猛る。その声が届くか否かの時分、フェイツはふっと自分の体に影が掛かるのを感じた。 影?太陽に迫る高さを飛んでいたのに?疑問を抱くより先に理解する。視界は触手の斑点模様で既に一杯になっていた。包囲されている。天を突く高さの巨大な触手群が、フェイツの飛ぶ空域数キロごと飲み込んでいた。 銀晶銀翼! 意識と同時に銀翼が煌めいた。宙を舞う波刃がフェイツの眼前に怒涛の群れを成し、一本の巨大な剣を作り上げる。船を思わせる規模の白刃が触手の壁に突き刺さった。どれほど大きかろうが、柔らかな触手を両断する事など訳もない。 しかしいくら切り薙いでも触手の壁に突破口は開かなかった。白刃は触手に埋もれるばかりで、沼でも切っているかのような手応えだ。予想を上回る量の触手が迫っている。 やがて銀晶銀翼ごと、フェイツの体は触手の濁流に飲み込まれた。 巨木程の太く大きいものから指程の細さのものまで、様々な触手がフェイツの全身を絞り上げた。触手は一本一本が濡れて舌の如く蠢き、体を這われる嫌悪感は筆舌に尽くしがたい。思わず声を上げそうになる。だからこいつは嫌なんだ。汚らわしい! フェイツはあっという間に触手の壁へ磔にされてしまった。 触手の大部分がしゅるしゅると砂地へ戻ってゆく。フェイツも地上まで引き摺り下ろされる。視界を遮っていた触手のカーテンが引かれ、触手に手足を拘束された格好のまま、フェイツは再び太陽の下にさらけ出された。 「…あれだけ睦言交わした仲なのにつれませんネ、ご褒美あげませんヨォ?」 「頂けなくともまあまあ結構」 磔刑を眺める野次馬さながら、フェイツを見上げるフェネキッスはさもおかしそうに笑っていた。 獲物を捕まえいい気になっているに違いない。フェいつは上級悪魔たる態度であしらいながら、触手から逃れフェネキッスをくびり殺す方法を案じる。 フェネキッスはどう見ても油断している。しかし流石に桃色の硝子玉を取り出す余地は与えてくれない。 「…そうそう」 何か思いついたらしい、フェネキッスはしゅるんと音を立ててその場から消えた。 フェイツの眼前に触手の塊がぶらんと下がり、触手をかき分けるようにフェネキッスが姿を現す。触手間を自在に移動するとはますます気色の悪い。頭を下にした宙ぶらりんの姿はハングドマンの様相である。 フェネキッスの髪、もとい触手に縛られているのはフェイツの方なので、フェネキッスから見ればフェイツこそが「吊られた男」なのだろうが。 鼻と鼻がくっつかんばかりに顔を近づけられ、細い触手で髪飾りをちりちり弄ばれる。フェイツは眉根を寄せた。 「アナタもしや知りませんでしたっけ?ワタクシの『言葉』は悪魔にはどうも通用しないのです」 知っている。 というよりも、ファリーナを追う最中に知った。「ションディは移動能力を使えない」と言わせても効果がなかったのだ。 「ワタクシとて悪魔の端くれ」 フェネキッスがこれ以上ない程に両目を細めて笑う。 「『悪魔フェネキッスは悪魔フェイツの魂を決して奪わない』…そんな言葉は無意味だったのかもしれないと、消え行く魂に精々お留めくださいませ」 耳に響く凄絶な笑い声。フェイツの手足を捉える触手が体を引き裂かんと動き始める。思わず苦笑いが漏れた。 「教えてくれてありがとう、お馬鹿サァン」 太陽光を受けた銀色が輝く。 斬撃一閃。フェネキッスの首は触手もろとも音もなく千切れた。 フェイツは武器を手元から離すような下手は打たない。大部分が触手に捕らわれていた銀晶銀翼だが、攻撃に足る量は懐に隠し持っていた。油断しきって自分から距離を詰めたフェネキッスの間抜けには、何が起こったかも分かるまい。 「アナタ懲りてな…あ……?」 白目を剥いたフェネキッスの首が砂地へ落ちてゆく。 触手の拘束が緩む。首が砂地にぼとりと落下するまでに、フェイツは拘束を抜け出し銀晶銀翼の大翼を呼び戻し終わっていた。不利な状況からは脱したが魔力を消費し過ぎた。安堵を挟む暇もなく桃色の硝子玉を取り出す。 フェネキッスの復活には恐らく数秒掛かる。復活の瞬間に愛欲の呪いで再び虜にしてしまえば、やっとおぞましい触手相手の戦いも終わる。盛大にため息でもつきたい気分だ。下級悪魔め、呪いで主導権を握ったら死なない程度に虐めてやる。 桃色の硝子玉を握りフェネキッスの首に意識を集中させる。 瞬間、激しい衝撃がフェイツを襲った。 豪音と共に砂が舞い上がる。体に何かが衝突した。痛みで呼吸と思考が一瞬遅れる。体中を締め付ける何かは触手の柔らかく濡れた感触ではなかった。重厚な金属に容赦なく押さえつけられている。 数メートルはあろうかという漆黒の鎧、その巨大な手にフェイツは掴まれていた。 「ションディィイ!」 「友の安らかな鎮魂が為、貴様を野放しにはできぬ!」 重低音の悲痛な声をあげるションディへと、銀晶銀翼が殺到する。 金切り音を上げて無数の刃に切りつけられながら、それでもションディの手は緩まない。殺意を以て握られたフェイツの体は既に痛みを通り越し砕け散りそうだ。折れた指では桃色の硝子玉を取り落とさぬよう力を込めるだけで精一杯である。 「アアァア!どいつモこいつモ邪魔バカリ!!」 呼吸もままならない中で叫んだ。 魔力を振り絞り銀晶銀翼を操る。ションディの背後では触手の山が再び隆起し、フェネキッスの復活を告げている。この状況をどう突破しろというのだ?魔力の補充ならできる。ファリーナの魂を使えばいい。だがそれでは本末転倒どころか文字通りの骨折り損である。 本当に、どれもこれもファリーナのせいじゃないか。 砂漠のどこかに埋まっているであろう死体へ呪詛を向け、フェイツは太陽を仰いだ。 ---- ↓オマケの挿絵的イメージ [[フェイツVSフェネキッス落書き/二十日]]

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